第42話 元ラーメン屋
薄暗く雰囲気のよくない
一戸建ての貸家だ。
表から見る限りでは
元ラーメン屋だったとは
気付かない。
もともと
普通の家だったものを
無理矢理
ラーメン屋に改装したのかも知れない。
路地の奥は行き止まりになっている。
その家の先に空き地があって、
そこで
車をユーターンして玄関前に着けた。
アルミの引き戸が閉まったままだ。
人がいるのかいないのか、
人気がない。
出て来る様子もないので、
車を降りて
アルミサッシの引き戸の前に立った。
何気なく脇を見ると
木の看板が下がっていて、
文字が書いてある。
「日本環境党」
日本環境党って何だろ。
党って付くということは
政治結社か。
何か胡散臭い気が
しないでもない。
どういう人が出て来るのだろうと
思いながら
「毎度ありがとうございます。
箱山タクシーです。」
声のトーンを上げて声をかけた。
「おーう、
今行くから
ちょっと待っててくれ。」
中からガラガラの太い声が
聞こえて来た。
怪しいな。
何かヤバそうな感じだ。
不安な気分で
車に戻って待っていた。
すでに
太陽が西の山々の向こう側に
入って行こうとしている。
秋の日は釣瓶落とし、
辺りは薄暗くなってきていた。
路地が狭いので
車が入って来やしないかと
気を揉みながら待っているが、
こちらの状況などお構い無しで
なかなか出て来ない。
車が来るとすれ違えない場所なのだ。
何やってるんだろう。
困らせるために意図的に
焦らしているんじゃないのか。
絶対これはわざとやっている。
そうとしか思えない。
これ以上待てない。
最近は
タクシー業界も厳しくなって来て、
迎車料金や待ち時間の料金を
サービスする風潮が
蔓延して、
おいそれと
大っぴらに待ち時間を
入れる訳にもいかなくなっている。
あとからトラブルの種になってしまう。
疑心暗鬼が渦巻いて
イライラしてきた。
痺れがきれて
帰っちゃおうかなと
思い始めたころ
引き戸が開いて人が出て来た。
目がギラギラして
六十がらみの痩せた
カマキリのような
不気味な男が玄関を出て立っている。
黒い革靴に黒いズボンで
白いワイシャツに黒のスーツ姿。
そしてあとから
サンダルを履いた
背の低い丸顔で、
茶色っぽいズボンに
青い柄のシャツを着た
やはり
同年代の小太りの男が
出て来て
玄関の鍵を締めた。
すると
痩せた男が
「早くしろ。
モタモタするな。
乗るぞ。
お前はいつも遅いんだ。
馬鹿野郎。」
うわっ、
思ってた通りヤバイ奴だ。
私は緊張しながら
ドアを開けた。
「お前が先に乗れ。
さっさとしろ。
もたもたしてんじゃねえ。
馬鹿野郎。
俺がいつも言ってるだろうが。」
ガラガラした
でかい声で怒鳴っている。
背の低い男は怒鳴られるまま、
黙って従っていた。
偉そうに何なんだこいつ。
横柄に威張り散らすこの男に
いい感じはしなかった。
二人が乗り込んだ。
「三ヶ崎まで行ってくれ。」
痩せた男が言った。
私は緊張しながら
車を発進させた。
車が路地を出て右折した。
両側に家が立ち並んで
まだ道は狭い。
その先の跨線橋の側道を抜けて
Uターンするようにして
県道へ出た。
そのまま
跨線橋を上って越えた。
「お前は馬鹿だから
何やってもダメなんだ。
俺がいつも言ってるだろう。
俺がいくら言ったって
お前は何もわかっちゃいないんだ。
俺の話しを真剣に聞いているのか。
もっと真面目にやれ馬鹿野郎。」
痩せた男は相棒を罵倒し続けている。
車は市街地を抜けて
田んぼ道へ出た。
「運転手さんよ。」
痩せた男がガラガラのばかでかい声で
話しかけてきた。
「何ですか。」
何を言い出すのだろう。
私も怒鳴られるのか
私は再び緊張が高まった。