表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/63

第41話 野球中継

陽が落ちると



家路を急ぐ人々が増えて、



箱山駅北口のタクシー乗り場も



少し動きがよくなった。



乗り場先頭になって、



胡麻塩頭ごましおあたま



初老しょろうの男が乗って来た。



「角井団地」



あごを上げて



つっけんどんに言った。



「はい、



かしこまりました。」



何だか横柄おうへいな感じの客だ。



駅を出て国道へ向かって行った。



むかえの車が多く



信号で渋滞している。



ラジオでジャイアンツ戦の



野球中継しているが、



野球音痴やきゅうおんちの私は



アナウンサーの声や歓声が



耳を素通りして



聞き流しているだけだった。



「どっちが勝ってるんだ。」



その客が前触まえぶれもなく



ボソッ



と言った。



どういう人なんだ。



ずいぶんえらそうな人だな。



と内心思ったが、



聞かれて言葉にまった。



ラジオを聞いていないのだ。



答えようがない。



「ちょっと前にラジオつけましたので



まだわからないんですが。」



とっさに答えた。



たしかに



スイッチを入れたのは



ほんの少し前なのだが



よく聞いていれば



どちらが勝っているか



くらいわかるのだろう。



「野球ぜんぜんわかりません。」



というのも



「なんだ、



野球知らないのか。」



と馬鹿にされるようで



気位きぐらいの高い私には



言えなかった。



ちょっと気まずかった。



その場をなんとかしようと



あせった。



野球を知らないのだから



黙っていればいいのだが、



黙っているのもしゃくだ。



「ジャイアンツも



村上監督のときは



強かったですね。」



この客はジャイアンツファンだろうと



気をきかせたつもりだった。



野球ファンなら



その状況では



絶対言わない言葉かも知れない。



「だれだそれは、



だれだ。」



客は怒ったように言うと、



そのあと何を言っても



答えてくれなくなった。



川上監督のことを



村上監督と言ってしまったのだ。



私にとって



野球選手といえば



川上、王、長島



くらいしか名前を知らないが、



野球好きの人は



信じられないほど



こまかいところまで



野球のことをよく知っている。



そこへもってきて



川上を村上と間違えるほど



野球を知らないやつが



知ったかぶりしやがってと



ムカッ



としたのだろう。



「うわ、



なんで間違っちゃったんだろ。



言わなきゃよかった。」



あとの祭りだ。



私はどうしようもない



自分自身の茶番ちゃばんさに



体が熱くなった。



脂汗あぶらあせしたたって、



なさけなく口をすぼませ、



目をパチパチさせながら



ハンドルをにぎった。



気位が高いというのは



思ってもみないような



災難を引き寄せるものだ。



もっと



正直に生きるべきなのだ。



その人は



毎日タクシーに乗って家まで帰るので



角井団地と言えば



わかるようになっていた。



団地といっても



一般的な団地ではなく



普通の分譲地だ。



そこの家は表から見ると



普通の家だが、



外壁に大きめの白いタイルが



全面に張られている。



タイル張りはお金がかかるらしいが



高給取りなのだろう。



後日



同じ町内会に住んでいる仲間の



菜樫ながし



どういう人なのか聞いてみた。



菜樫の情報では



田塚さんという人で、



元、茎田総理くきだそうり



第一秘書だということだった。



茎田総理が亡くなったあと、



自民党の仕事をしているらしい。



この地域はどういうわけか



茎田総理関係者に



縁があるらしい。



それから



しばらく日にちが過ぎた夕方、



北口先頭の無線で



私が出された。



無線の指示に従って行くと、



そこは県営団地近くで



路地の奥まったところにある



元ラーメン屋の家だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ