第4話 仁義
「あ、すいません。
箱山タクシーですけど、
いま
お客さんで禿原さんという方が
こちらに言えばわかる
ということで伺ったんですが、
禿原さんてご存知でしょうか。」
どう言えばいいのか
悩みながら相手に伝えた。
「禿原。
知らねえな。
誰だそれは。
聞いたこともねえ。」
組員は警戒心を強めながら言った。
「そうですか。
わからないですか。
じゃあ仕方ないですね。」
わたしは相手が知らないと言うのに
それ以上
何とかしろとは言えないので、
ドアを閉めて引き返そうとした。
不意に、
「私は北海道の解散しました
海山組満腹会の禿原と申します。
お見知りおきのほど
よろしくお願いいたします。」
横から強引に割り込んで来て
頭を下げて仁義をした。
「何者だてめえは。
何しに来た。」
組員は声を荒らげて怒鳴った。
「どうした。
何かあったのか。」
騒ぎを聞きつけて、
奥から幹部の山道が
怪訝な顔で出て来た。
山道は腎臓でも悪いのか、
顔が以前とは見違えるほど
むくんでいて、
だいぶ具合が悪そうだった。
私は街宣車に寄り掛かったまま
下がるに下がれず、
顔の前で
ヤクザ同士のやり取りを
見ているしかなかった。
「何言ってるのかわからねえ奴が
来てるんですよ。」
若い組員が山道に言った。
この時期、
中小会と米麦会は
抗争事件に発展していて、
いつ襲われるかわからないため、
特に警戒を強めていたのだ。
「いえ、
怪しい者ではありません。」
禿原が警戒を緩めるように言った。
「何の用で来たんだ。」
組員は無駄なことは言わず
短く聞いた。
「一宿一飯
お願いしたいんですが。」
禿原は言った。
「一宿一飯か。
お前は海山組だろ。
海山組じゃ代紋が違うぞ。
代紋が違っちゃ駄目だ。
米麦会のほうへ行けばいい。
うちは駄目だ。
帰ってくれ。
運ちゃん馬山駅へ連れて行け。」
山道が追い返そうとして
言い放った。
馬山駅の近くには
海山会と義兄弟盃を
交わした米麦会傘下の組がある。
山道はそこへ連れて行けと言っているのだ。
「駄目ですか。
わかりました。」
禿原が頭を下げて引き返した。
「じゃあ
馬山の米麦会へ行ってくれ。」
禿原が言ったが、
何を思ったのか
「ちょっと
待っててくれ。」
と言い残して、
また組事務所のほうへ歩いて行った。
何をやっているのか。
なかなか戻って来ない。
私はまだあの客と
付き合わなくちゃならないのかと
気が重くなっていた。