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第35話 示談

やっぱり来たか。



事務所に緊張が走った。



全員が男の出方でかた



うかがった。



常務が対応に出ると



男はおもむろに



名刺を差し出した。



名刺には



「米麦会 凶田組 組長代行 篠川虎次」



と書かれてあった。



凶田組ナンバーツーだ。



常務は差し出された名刺を見ながら



丁重ていちょう



「あのー、



どのようなご用件でしょうか。」



低姿勢だが



何食わぬ顔でたずねた。



「昨日の馬山駅の件なんだがね。」



ぶしつけに篠川が切り出した。



「じつはお宅の乗務員がぶつけたのは



うちの若い者の車だったんだよ。



かわいそうに



大事にしている車をぶつけられて



何の挨拶もなしで、



黙って行っちゃうんだから、



どう考えても



筋が通らねえと思うんだがね。



そのあとうちの屋台の前でくそだ。



営業出来ないよな。



うちのほうとしてはそれについても



補償してもらいたい



と思っているんだがね。



ラーメン食いたいと思ったって



糞ひってあったら誰も寄り付かねえよね。



糞のほうはうちの若いのに掃除させておいたが、



ほんらいならうちが掃除することではないんだ。



しかし、



お宅は社員にどういう教育しているんだい。



警官が事情聞こうとしたら



逃げちゃっていないんだから、



どうしようもないな。



教育がなってねえんじゃねえんかい。」



篠川は静かだが



油断のならない目をして言った。



「ああ、そうでしたか。



ご迷惑をおかけしたうえ、



いろいろお世話になり、



申し訳ございませんでした。」



常務は腰を低くして頭を下げた。



「まあ



警察のほうでも示談で済むなら、



そのようにしたらどうかと言うもので、



それで寄らしてもらったわけなんだがね。



うちの若いもんは



あの車を大事にしてるんだ。



誰だって気に入っている車を



ぶつけられればただじゃ済まねえよな。」



篠川は威圧するように言った。



これは困ったな。



どうしょうか。



対応を間違えると



馬山駅のうちの営業車に嫌がらせをされる。



彼らは法律に触れないように



仕事の邪魔をすることはおてのものだ。



よくミカジメ料などを払わなかったり、



あるいは借金の返済を請け負う



「切り取り」



などでねらわれた飲食店だと



開店と同時に押しかけて



ボックス席すべてに



一人づつ座って、



ビールを一本だけ注文する。



そして、



その一本を一日かけて



ちびりちびり飲み、



腹が減ると



その店に出前をとらせて



閉店までねばる。



これを毎日やるのだ。



他の客が入って来ても



店内の異様な雰囲気に



寄り付かなくなってしまう。



結局



最後は店が折れて金を払うか、



あくまでも払わないで



店がつぶれるか



どちらかになってしまう。



警察に訴えても



客としてビールを注文し、



金も払って店の中にいるわけで、



明らかに脅迫しているという



決め手がないために



取り締まるわけにはいかない。



タクシーも同じだ。



うちの車が駅先頭になるのを待っていて、



乗り込んで来て



ワンメーターの仕事をさせ、



わざとわからないような場所を指示して



ドライバーに間違わせて、ごねれば



金を払わずに邪魔をすることが出来る。



警察に訴えても



客として乗っているわけだから、



警察としては取り締まりようがないのだ。



常務は椅子を篠川にすすめると



「こちらで少々お待ち願えますでしょうか。



すぐに参りますので。」



と言い残して



奥の専務の部屋へ入って行ったが、



専務と相談していたのだろう。



しばらくすると



封筒を持って出て来た。



「お待たせしました。



示談といってはなんですが、



これで手を打っていただけないでしょうか。」



常務はこれでごねられたらどうしようか



と思いながら



ふくらんだ封筒を篠川に手渡した。



篠川は封筒の中をのぞき込んで



「まあ、いいか。



社員の教育はもっとまじめにやらないとだめだな。」



と言うと素直に帰って行った。



篠川としても



ほとんど傷らしいものもない傷で



横車を押すのは



気が引けていたのかも知れない。



しかし、



下次はあれからどうなってしまったのだろう。



自分に合う仕事が見つかっただろうか。



ひとごとながら気にかかっている。


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