第3話 組事務所
「お客さん、
組の事務所って言っても
どこの組ですか。
それがわからなければ
行っても駄目でしょう。」
料金払えるのかなと
思いながら尋ねた。
どう見ても
お金を持っているようには見えない。
「いいから行け。
どこでもいいから
行けばいいんだ。」
男は少しいらついて言った。
仕方なく
私は車を発進させた。
「近くにあるのは
中小会の
狭瀬組ですよ
。大丈夫ですか。」
私は念を押した。
「中小会か。」
男は言ったが、
それが別に困った風でもなかった。
ワンメーターで
事務所の前に到着した。
家の回りをコンクリートの塀が囲っていて
入口に街宣車が停めてある。
暴対法の関係で
組の看板を出すことが出来ないため、
知らない人には
普通の家にしか見えない。
「お客さん、
ここが狭瀬組の事務所です。」
これで料金もらって解放だ。
早く降りて欲しい。
私はメーターを止めて
料金を請求した。
「俺は北海道の解散した
海山組満腹会の禿原
という者だが、
ちょっと言って来てくれ。」
降りると思っていた男が
金も払わず、
降りようともしないで
言った。
「えっ、
どこへ行くんですか。」
私は訳がわからず
聞き返した。
「だから
満腹会の禿原が来たと言えばわかるんだ。
言って来てくれ。」
男は焦れたように言った。
「お客さん、
仁義は自分でやらなくちゃ駄目ですよ。
私が替わりに仁義したって
意味がないでしょう。
お客さんが行って下さいよ。
私じゃ駄目です。」
何言ってるんだ、
この人は
ヤクザのくせに気が弱いんじゃないのか。
自分で仁義も出来ないで
何がヤクザだよ。
私は内心呆れて言った。
「いいから言ってこい。
そう言えばわかるんだ。」
イライラしているのが
男の言葉で伝わって来る。
仕方なく
私は車を降りると、
嫌んなっちゃうな、
と思いながら、
街宣車をギリギリにつけて停めてある
玄関のチャイムを鳴らした。
中から出て来る気配がない。
いないのか。
二、三回鳴らしたとき
中から声がして
ドアが外に開いた。
私はうしろに下がって
開くドアを避けた。
背中が街宣車に押されて
それ以上下がれない。
人が一人入れるだけの
隙間しかないのだ。
「誰だ。
何の用だ。」
組の若い者が警戒した目で
凄んで言った。