第28話 屋台ラーメン
しかし
馬山駅北口は
真夜中になると人通りが途絶えて
静かになる。
ときおり
思い出したように露地から人が出て来て
タクシーに乗る。
その間は
一台の車に仲間が乗り込んで
馬鹿話に花を咲かせていた。
春から夏に
季節が変わろうとしているころで
タクシーの窓ガラスを開けて
夜風を入れていると
心地良い外気が入って来る。
そろそろ
真夜中の三時になろうかという頃だ。
「ガガーン、ガゴーン、
ガガーン、ガゴーン」
「何の音だ。」
私はとっさに
どこから響いて来るのか
思わず見回した。
「おいおい、
頭いっちゃってるよ。
ああいうところで食いたくねえな。」
助手席に座っている上松が
前の様子を見ながら言った。
後ろの座席にいる梨原と高本も
身を乗り出して来た。
「うわー、
だいぶいかれてる。」
「ひでー。
どうかしてる。」
二人も口々に言って
薄気味悪そうに見ていた。
ロータリーの歩道に
屋台の軽トラを乗り上げて商売をしている
ラーメン屋が
何を思ったか
狂ったように積んであるガスボンベを
サンドバッグがわりに
素手で殴っている。
四十代くらいの店主は
空手でもやっているのだろう。
全身の筋肉が盛り上がっていて
太くがっしりした腕の拳が
ボンベに鋭く突き刺さる。
そのたびに
衝撃で
ボンベが荷台の上で激しく踊り上がった。
酔った客にナメられないように、
自分の強さを示そうとしているのだろうが、
こんなのに殴られたら
酔客はひとたまりもないだろう。
タクシードライバーは
誰もそこで食べる者はいなかった。
そのうち、
そのラーメン屋は姿を消した。
凶暴ラーメンを敬遠して
客が寄り付かなくなったのかも知れない。
それから半年以上
ラーメン屋は現れなかったが、
ある日の夜、
突然ラーメン屋が
まったく同じ場所に現れた。
しかし
ラーメンを売っている店主は
あの凶暴ラーメンの店主ではなかった。
以前の店主と比べると
紳士的な顔をした人物だ。
別の人がラーメン屋を始めたんだなと
私は思った。
終電車が終わって
例の如く
私の車にいつものメンバーが乗り込んで来た。
そして
そのうちの一人の梨原が
ラーメン屋を見て即座に
「あれは完璧ヤバイですよ。
気をつけて下さい。」
と言った。