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第26話 解明

しかし、



この社員はどこへ行こうと



しているのだろう。



そしてどんな悪い奴で



何について調査されているのか。



浮気なのか。



それとも会社の金を使い込んだのか。



あるいは凶悪な犯罪者か。



私は再び前を行く車の主が



何らかの罪を犯した人なのではないか



という思いから離れることが出来ず、



相変わらず釈然しゃくぜんとしないまま、



本人に尾行がばれたら



大変なことになるのではないかと、



心の中には不安と



相手に逆切れされる妄想が



広がっていた。



信号が変わってまた動き出した。



社員の車は二つ先の国道の信号を



右折する。



私もうしろにピッタリついて曲がった。



国道は車の流れが速いので



信号で止められると見失ってしまう。



私は前の車との距離を空けないように



ついて行った。



馬山駅入り口の信号を越えて



交番とカラオケオダッコスの信号を



過ぎたところにコンビニオーサンがあって、



そこを左折した。



そこは来田市へ向かっている細い旧道だ。



信号を一つ過ぎて



その先がゆるいカーブになっているところに



もう一つのコンビニヘブンエレビンがある。



その駐車場に前の車がサッと



入って止まった。



私は先程の要領で



そのまま通り過ぎて、



少し走らせて止まった。



交通量は少ないが



結構頻繁けっこうひんぱんに車が来る。



止まっているところが



ゴミの収集場所になっていた。



翌日が大型ゴミの回収日にでもなっているのか



ソファーだとか、大きなぬいぐるみだとか、



机などのかさ張る物が置いてある。



そのわきに止まっているのだ。



ごみを捨てに来た住民が



「邪魔なところに止めてやがって」



という目で見るので居心地が良くなかった。



社員は店の中で



本の立ち読みでもしているのだろうか、



なかなか出て来ない。



私と探偵はまったくの無言で、



うしろを振り向きながら、



ただひたすら出て来るのを待っている。



首が疲れる仕事だ。



これで失敗すれば



探偵は依頼主に報酬を請求することが



出来ないだろう。



いつまでも失敗していれば生活出来ない。



探偵というのも割に合わない大変な仕事だ。



待ちくたびれるほど待った気がしたころ、



やっと社員が出て来て、



また追跡が始まった。



このまま行くと



バイパスのところに並んでいる



ホテル街のところへ入って行くが、



そこにあるどこかのホテルにでも



行くつもりなのか。



だとすると浮気だ。



私はホテルで浮気相手と



待ち合わせしているのではないかと



勝手に想像した。



いよいよホテル街が近くなって



ネオンが暗闇に光っているのが見えて来た。



不意に前の車が右折して



その先を左折した。



他の車は一台もなく



ただ二台の車が同じ方向へ



走っているだけになってしまった。



これでもまだ気がつかないのか。



前の車はホテル街のすぐ手前に出来た



新興住宅地の中程なかほどに建っている



家と家の間にある路地に



吸い込まれるように入って消えた。



「ここで止まって。



入らなくていいです。」



探偵は言うと、



ホッと息をついてから



「ここで待ってて下さい。



ちょっと降りて確認して来ます。」



暗く無愛想な雰囲気の探偵が



暗い路地の中へ入って行った。



まわりを見回すと



十階建て位のホテルがすぐ脇にある。



そして、



その先に



立体交差でバイパスが上を通っていて



車が行きっている。



それらをしばらく眺めていると



探偵が戻って来て



車に乗り込んだ。



「成功です。」



ボソッと言ってから



携帯電話をどこかにかけた。



「あっ、



成功です。



完了しました。



はい、はい、



今回は問題ありませんでした。



はい、はい、はい、



詳しいことはあとから報告します。



はい、はい、



そうです。



はい、



わかりました。」



話しのやり取りの内容はわからなかったが



依頼主への報告だったのかも知れない。



そのあと



馬山駅まで探偵を送って、



やっとその仕事は終わった。



何のための尾行だったのか



わからないままだったが、



それからだいぶったある日、



朝日病院の透析患者とうせきかんじゃ



青沢さんの無線を取った。



青沢さんは



六十代の髪の毛が薄くなっている



太った人だ。



このあたりでは



有名なヤクザの親分のおい



なまずにそっくりな顔をしている。



来田市の自宅までだ。



よくしゃべる人で、



道中ずっと話しをしていたが、



途中で



「ホジン薬品っていうのがあるでしょう。」



突然青沢さんが言った。



「ああ、ありますね。」



私が言った。



「あそこはおかしな会社でね。



社長が社員を信じられなくて、



社員の素行そこうを調べさせているんですよ。



私の知り合いがホジン薬品に勤めているんだがね。



そんなことを言ってましたよ。」



青沢さんがドスのいた



力のある声で言った。



私ははっとして、



しばらく前の尾行事件のことを思い出した。



あれはホジン薬品の社長が依頼していたのか。



なるほどそうだったのか。



もしかすると



青沢さんの知り合いというのは



私が尾行したあの社員で、



尾行されていることもわかっていたのかな



とも一瞬思ったが、



私は何となく



いままでに落ちなかった想いが



一気に解明されたように感じた。


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