第24話 あせり
歩行者信号が点滅を始めた。
まだ抜けるには距離がある。
どうなる。
間に合うか。
バイパスの信号だから
ひっかかると前の車を見失ってしまう。
祈る気持ちで
バイパスの交差点に入った、
と同時に黄色になった。
ギリギリだ。
ホッと
胸を撫で下ろしたが、
ここから信号が多くなる。
それに
黄色で抜けることが二、三回続くと、
そのあと必ず赤で止められるのだ。
社員の車は
その先の二股を
左方向へ行って
新幹線の高架の下の道に入り、
途中から右折して
高架を潜って左折した。
広い通りで交通量が多い。
私の車が続いて左折しようと
一時停止で止まると、
直進車両が数台
目の前を通り過ぎて
追っている車の後に
入り込む形になってしまった。
入られちゃまずいんだよな。
私はうまく追跡出来るかどうか
不安になって
イライラしてきた。
間に挟まっている車が邪魔だ。
社員の車は
その先の十字路の右折車線に入って
赤信号で止まった。
邪魔な車も後に続いている。
信号が変わって青になったとき、
間に入っている車が
素早く曲がってくれればいいのだが、
それが少しでももたつけば
私が曲がれなくなってしまう。
ここは何が何でも
曲がらなければならないのだ。
私は通り抜けられることを
祈りながら
信号が変わるのを待った。
青信号側が黄色に変わって
こちらの信号が青になった。
夕方の退社時間のためか
直進の車が多く
途切れない。
そのまま黄色になって
右折矢印になった。
先頭の社員の車が素早く曲がった。
続く車が意味もなく
モタモタ曲がっている。
「モタモタするな。
早く。」
私は心の中で怒鳴った。
頭に来る。
歩行者信号が点滅を始めている。
「早くしろ。早く。」
私は体が熱くなるほど焦っていた。
探偵は助手席の背もたれにしがみついて
固まっている。
次々曲がっ行く車が遅く感じて、
私の頭から湯気が立つほど
汗が噴き出して来て
やたら痒い。
やっと
私が曲がるところで
また黄色になった。
「行け。」
私は強引に交差点に入って
すれすれに抜けた。
探偵はホッとしたのか、
ため息をついて
後部座席の背もたれに戻った。
私の額は脂汗でびっしょりだ。
こんな状態がどこまで続くのか。
この先が思いやられた。
右折して
すぐ踏み切りがある。
その手前に
左へ行く道があって
何台かの車が左折した。
これで尾行している車との間に
一台の車が挟まっている状態になって
少し追跡しやすくなった。
前の車は踏み切りを越えて
またスピードを上げた。
順調に行けそうだ。
大手のスーパーの脇を抜け
中学校を過ぎた。
尾行とは
こんなにも
ハラハラドキドキするものなのか。
探偵の仕事は大変だ。
だから目が釣り上がって
人相が悪くなるのだ。
私の目もいつのまにか釣り上がって
人相が悪くなっているのではないか
と思ったりもした。
セカセカ走っていた社員の車が
突然ウインカーを点滅させて
止まった。
「あっ、止まりますよ。」
私は尾行している車が急に止まったので、
どうしたらいいのか判断出来ず、
そのまま
アクセルを離して止まろうとした。
私のすぐ前を走っていた車が
社員の車を追い越して
走って行った。
「止まらないで。
そのまま追い越してください。
もうちょっと
先まで行って止まってください。」
探偵はまた身を乗り出して
早口に言った。
私は慌ててアクセルを踏み込んで
社員の車を追い越すと
少し先まで行って止まった。
車が次々走って来るところに
ハザードをつけて止まっているのは
気を使って嫌なものだ。
しかし
このようなところに止まっていて
怪しまれないのだろうか、
と思ったが
社員は尾行されているとは
まったく気付かず、
知り合いらしい家の中へ
入って行った。
そして
そのままなかなか出て来ない。
待たされている身からすると
やたら時間が長く感じるのだ。
「何してるんだ。
早く出て来い。」
私は焦れてイライラしていた。