表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/63

第23話 二十面相

「よし、



気付いていないな。」



私は何食わぬ顔で



通りに出て歩き出した。



昼過ぎの日差しは



強く焼けるようだ。



おじさんは油断して



のんびり歩いている。



人通りはなく、



振り返えられたら



一発でわかってしまいそうで



何となく落ち着かない。



くず鉄屋を過ぎ、



その先の運送会社から



コールタール置場を過ぎると



十字路になる。



おじさんはそこを曲がろうとしていた。



「よし、ここからだ。」



ちょうど



運送会社の丁字路にいた私は



一瞬立ち止まると、



駅へ向かって行くおじさんを確認して、



さくろうするために、



そこを右へ曲がって



走り出そうとした。



線路の側道がその先にある。



「しんちゃん、どこ行く。



そっちじゃなーい。



ちがーう。



そっちだめー。」



突然、



思い切り



金切り声が響き渡った。



私はビクッと固まった。



「あーっ



なんてことだ。



ダメだ。



失敗だー。



どうして大声を出すんだよ。」



私は出鼻をくじかれ、



ボットンと



張り切ったやる気が



音を立てて落ちたのを感じた。



投げやりな気分で観念して、



しかたなく通りに戻った。



おじさんはびっくりした顔で



振り返っていたが、



次の瞬間



泳ぐように手足をバタつかせながら



右へ曲がらないで



左に向かって



全力で走り始めた。



バス通りに行くつもりだ。



私も全力で走って、



十字路を曲がった。



おじさんは全力疾走ぜんりょくしっそうのまま、



うしろを振り向きながら笑っていた。



ざまあみろ、



ついて来れるものなら



ついて来てみろ



と言っているのだろう。



「あー、怪人二十面相だ。」



私は追いかける気力もせ、



へなへな力が抜けて



口をあんぐり開けたまま



立ちすくんでいた。



天才明智小五郎は



あっけなく砕け散って



冷や汗と脂汗にまみれ、



肩を落として



すごすごと



来た道を引き返すほかなかった。



尾行とはむずかしものだと、



その時



私はさとったのだ。



前の車は畑が広がっている細い道を



馬山市内に向かって



相変わらずセカセカと



落ち着きなく走って行く。



しばらく行くと



小さい橋がある。



それを渡ると住宅街に入った。



まだ道はせまい。



信号が見えて来た。



青ランプだ。



車はスピードを上げた。



一気に抜けようとしているのだろう。



「もっとピッタリつけてください。



もっと。



離れないで。」



絶叫ぜっきょうだ。



探偵はあせって、



ストレスが絶頂まで達している。



「信号変わるなよ。」



心臓はドキドキだ。



祈る気持ちで私もアクセルを踏み込んだ。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ