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第2話 駅先頭

あれから



何十年経ったのだろうか。



どういう訳か



低崎線箱山駅の



タクシープールの先頭で



客待ちをしている



自分がいた。



子供のときから自惚うぬぼれて、



人を人とも思わず、



傲慢ごうまんなだけで、



中身もなく



努力もしない人間を



神は奈落ならくの底へ落とすのだ。



「組の事務所へ乗っけてってくれないか。



このへんに組の事務所があるだろう。」



近寄って来た三十前後と思われる男が



声をかけて来た。



服はヨレヨレの白いワイシャツに



黒いズボン姿、



持ち物は何もない。



見るからに



信用出来ない雰囲気を



漂わせている。



「組の事務所ですか。



いやー、



知りませんね。」



私は近くに組事務所があることは知っていたが



内心、



これはかかわりたくないな。



と思って知らないと答えた。



すると



男はタクシープールの中にいる他の乗務員に



次々聞き回った。



どういう事情があるのだろう。



切羽詰まって



必死になっているようにも



感じられる。



聞かれた乗務員達も



気を利かせて



皆が知らないと答えていた。



そこへ一人の乗務員が



「組の事務所なら



すぐそこにあるだろう。



国道の向こうにあるよ。」



何で知らないんだという感じで



乗務員に教えた。



私はまずいなと思ったが、



その答えた乗務員が



乗せて行くだろうと、



勝手に思ってしまって



人ごとのように聞いていた。



「あるのか。」



途端に



喜々として男が叫ぶように言った。



「じゃあ、



お前が乗っけてってくれるか。」



男がその乗務員に言うと



「私は先頭じゃないから、



そこの先頭に乗って下さい。」



私のほうを指さして言った。



「おい、俺かよ。」



話しが違うだろう。



余計なことを言うから



こんなことになっちゃうんだ。



うんざりした気持ちになったが、



男のほうは



ほっとしたように、



私の車に乗り込んで来た。



「その組事務所へ乗っけてってくれ。



近いのか。



近くだって言ってたよな。」



男は落ち着きなく早口で言った。



私は出来れば乗せたくなかったので



「ええすぐ近くです。



歩いて行けますから、



歩いて行ったほうがいいですよ。



お金がもったいないです。



道、お教えしますから



そのほうがいいと思いますよ。」



私は男が



「じゃ、そうするか。」



と言うであろうことを



期待して言った。



「いいから行ってくれ。



俺には道がわからねえんだからよ。」



一度乗り込んだら



テコでも降りねえぞというように



前の座席の背もたれにしがみついた。


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