第16話 勘違い
女はそのまま歩いて来ると、
「話しがあるそうだから
電話に出て下さい。」
無表情で言った
。
厄介だな
と思いながら車を降りると
受話器を取った。
そして
「電話替わりました。」
恐る恐る声をかけた。
「バカヤロー、
ふざけてんのか、
おまえ。」
電話に出るなり
ドスを効かせた怒鳴り声がした。
「いえ、
申し訳ありません。
勘違いしたものですから。」
私は慌てて言い訳をした。
「なめてんだな。
どうなるかわかってんだろうな。
申し訳ないで済むと思ってんのか。」
相手は凄んで言った。
「すいません。
申し訳ありません。」
私は言い訳の言葉も見つからないまま、
繰り返し謝るしかなかった。
これはただじゃ済まないな。
相手がどんな要求をしてくるだろうか。
どうしたらいいんだろう。
私は内心穏やかではなかった。
「おまえ、
すぐ浅山のタヤマホテルまで来い。
わかったな。
すぐ来い。」
来たらぶん殴ってやるという響きが
男の言葉にあった。
「はい、
わかりました。」
私は浅山で殴られるかも知れない
と思いながら覚悟を決めて答えた。
女に受話器を手渡すと車に戻った。
しばらくして
女が電話を切って車に乗り込んだ。
車を発進させたが神経痛がひどく、
首を回せない。
腕が痛んで
止めておいたメーター機のスイッチを
押す指先がプルプル震えている。
たぶん彼女は私が怯えていると
勘違していているのではないか
と気になった。
先程無線で聞いておいた記憶をたどって、
はらはらしながら線路ぎわの道を走った。
向こうに着いて
一発で場所がわからなかったら
また大変なことになる。
私の緊張はますます高まった。
浅山駅が見えてきて、
その先が突き当たりになる。
その手前を右に曲がるのだ。
私の緊張は極に達していた。
「あっ、いた」
女が突然声を上げた。