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その時私は黒いワンピースを着ていた。
いつも服装などこだわったことがないけれど、めずらしく気に入ったデザインで、初めて自分で選んで買った服だ。
ちょっとしたフォーマルな場にも着ていけるような、無地でシンプルなミニドレス。
ただ後ろから見ると背中が結構開いていて、あと腰のあたりで結ぶ大きめのリボンも可愛かった。
私は小さい頃から絵を書くのが大好きで、いつも落書きばかりしていた。
大半は漫画のキャラクターのようなイラスト。
たまに風景画を書くこともあった。漫画のタッチとは変えて。
その「絵」が私の人生を変えたので、落書きも捨てたものではない。
とはいっても正直私の画力はそこそこだ。
それはもちろん、絵で稼ぐ程度には書けるけれど、でも分不相応なほどにいろいろな仕事を振ってもらっていた。
結局ここでも見た目だった。
あとは仕上げるまでのスピードが比較的速いというのは
強みだった。
賞金目当てで応募した、ライトノベルのイラスト部門で、入選したのだ。
しかも大賞。
そのご縁もあって、出版社のパーティーに参加することになった。
当時私は中学二年生になったばかりだったので、表立って仕事をすることは稀だったけど、その代わり漫画のアシスタントとしてよく駆り出された。
最初は、急にアシスタントさんが病欠されたという、締め切り間際の少女漫画家さん。
そのうち、少年週刊誌の現場に送り込まれるようになって、ひたすら背景を書いたり、ひたすら食事を作ったり、ひたすら掃除をしたりもした。