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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

お題  #000003  竜虎相搏つ

作者: 終わりの詩人

 草木も寝静まる丑満時(うしみつどき)ソレは満月の光が、狂おしくも美しい、幻想的な夜だった。

 

 雲がまばらながらも、月明かりは地表を満遍なく照らし、周囲を千山に囲まれど、ソレを超える高さの凄まじさで、中心にそびえ立つ幾重にも重なる城は、圧巻の一言に尽きる。


 加えて周囲に植えられる松の何と立派な事か、ソレはまさに風花雪月(ふうかせつげつ)あるいは桃源郷(とうげんきょう)と呼ぶべきこの世の奇跡の1ページ。


 その城内の草生した(くさむした)石段にて、1人の来訪者を二体いで一対の金剛力士像が出迎える。その男は白と黒を基調とした胴着に、ライフル銃らしき物を背負う些か(いささか)歪さが香る。


 軽く城を見上げた後、その先へと進む。ある物を求めてーーー。


 その奥地にて待ち受けるは、二つの灯籠(とうろう)を中心にいただくテーブルにて、寄りかかるように座るもう1人の男あり。


 赤色の少々パンクなレザースーツを全身に纏い、視界を布で覆い隠す。薬莢(やっきょう)を親指で弾き、回転しながら落ちて来たらまた弾く。内部で音が反響し、一定のメロディーを奏でる。


 ……来たか。


 男は口角を吊り上げると、児戯を中断し、薬莢を左手で受け止める、ソレをつまみ、想い馳せるように見つめる。隠された瞳には何が映るのかーー。


 数秒の後男は、扉に迫る気配に気付き、顔を上げる。


 男は躊躇いもなく、堂々と扉を押し広げ、中庭へ入ってきた。落ち葉を踏み締め、ゆっくりと進むその手には、二丁の拳銃を握り、ユラユラと体を振りながら淡々とその足を進める。


 覆面(ふくめん)は二階の渡り廊下からソレを見下ろし、行動を伺う。


 胴着はテーブルを発見し、そこに歩を進めると、そこに右手の拳銃を置き、無造作に撒かれた薬莢を一つ手に取る。ソレを食い入るように見つめ、瞳孔を開く。


 竜の彫り…コレは家紋か?


「どこの組織だ?」


 背後から男の声。気配を消し、近付き、隙をついた。


 覆面も二丁の拳銃を持ち、カチッと音を鳴らし引き金を引くと、一見変わった銃口を胴着の頭へと向ける。片方を胴着は顔を動かさぬように目線を横に向た。


 静止する世界で、風だけが刻の流れを教えてくれる。口角を吊り上げ、右手をテーブルに伸ばすと、流れるように銃を掴み、振り向き、弾丸を放つ。


 開戦の合図とともに、激しい組み手とでも言うべき撃ち合いが始まる。


 胴着が狙いを定め引き金を引く瞬間、覆面が内側から外に弾き、弾は的外れに飛んでいく。左から右から、読み違え、僅かでも外側へと弾くのが遅れれば、その凶弾は容赦無く命を刈り取る。銃士と銃士の決着は一瞬、だとすればその拮抗は長くは続かない。


 お互いの得物をぶつけ合い、下に回し切り上げると、銃口をいち早く構えた覆面はその類稀なる銃から、螺旋を描くように刃の付いた円盤が飛び出す。ソレは赤く燃え上がり、胴着の顔に飛んでいく。


 ソレは紙一重で避けられ、驚愕の表情に僅かな一雫が流れる。


 2人は半歩分の距離を取り、お互いに銃を構え合い硬直した。だが覆面の銃口は右手が不自然に上に向けれれる。

 

 そのトリガーを引いたと同時に、鉤爪と紐のようなものが伸び、二階の屋根裏に直撃、鉤爪が返しとなり、ソレを巻き取る。覆面は一気に7メートルの高さまで上昇し、頭上を取り、空中で体制を立て直し左手の銃から、火花が散るほどの円運動を繰り返し、再び謎の円盤が飛び出す。

 

 ソレは近くの柱に命中。そして電光石火の如く駆け回り、周囲の建造物を破壊し、落下と同時に爆発しながら、地上を暴れ回る。胴着は右肩からの前転で避けると、その隙に二階へと降り立った覆面に対し、追いかけるように銃弾を連射する。その銃弾は手摺りを破壊しながら迫って行く。


 ソレに対し、覆面は脱兎の如く、渡り廊下を駆け抜ける。猛追に対し、二丁銃のスピンを繰り返し、円盤発射のための回転エネルギーを蓄えていく。


 突き進む先で行き止まりに到達し、左で鉤爪を飛ばし、ソレを引いて、体をなびかせるように10メートルはあるでろう反対側の距離を一気に詰める。


 その過程で右の銃口を構え、何度も発射し、胴着を牽制した。そして縄を巻き切る前に、斜めに引く事で、しなりを利用し空を蹴り上げるように、回転しながらフックを外す事で、元のテーブルの位置の一階へ着地する。


 覆面は再び両銃を構え、足を広げ、連射し、横回転を加えていく。ソレにより、火花が発生し、銃丸の威力は数倍に跳ね上がる。


 胴着はたまらず瞳孔を開き、銃で応戦しながら一直線に柱を目指すも、回転する事で狙いを付けさせてもらえず。隠れた後も銃弾は絶え間なく放たれ続け、柱はシロアリにでも喰われたように無惨な状態になる。


 ーーー掛かった。


 覆面は待ち続けたと言わんばかりに、口角を大きく吊り上げる。右の銃で柱に鉤爪を飛ばし、引っ掛けると同時にソレを体を左に回しながら後ろへと引っ張る。


 虫食い状態の柱は折れ、二階の通路は崩れ去り、その音で気づいたのか胴着は上を見上げるも刻すでに遅く、せめてもと手で頭を庇い、下敷きになった。


 その視界は闇に閉ざされ、ピクリとも動く様子がない。


 土煙の中、瓦礫に埋もれた手合いを見送ると、覆面は右の銃をシュッと振り、紐を巻き上げる。


 流石に死んだか?


 任務を遂行し、その場を立ち去ろうと振り返る。歩を進めたその時……瓦礫が揺れる。しかし、覆面はまだ気付かない。そして破片が吹き飛び、中から土煙とともに、背負っていたライフル銃を構えた胴着が跳び出す。


「お前を殺すまで、俺は死ねないんだよ、龍弥(りゅうや)!!」


 その名は胴着の全てを奪った男。男は復讐のためにここに来た。例え、差し違えても男を殺す。その決意があった。


「何!?お前はまさか、虎五郎(とらごろう)!?」


 虎五郎は銃口を構えたまま強引に着地、そのまま龍弥に鋭い銃弾を放つ。龍弥は堪らず右に一転し、左に構えた銃口から鉤爪を飛ばす。刺さったソレを巻き取り、ギリギリで次弾を回避。城の(はり)に着地し、今度は蹴り上げる事で追撃を回避する。


 龍弥は宙で前に反転し、右の鉤爪を虎五郎の右後ろの扉へと打ち込む。ソレに怯み、反応した隙に、左からももう1発右から左後ろに放った。虎五郎は狙いに気づくももう遅い。

 

 龍弥がソレらを一気に巻き上げ、獲物を狙い、急降下する鷹の如く、重力と引力に任せ、その右足が虎五郎の腹部へと鈍い音を立て吸い込まれる。


「があっ!?」


 虎五郎の叫び声と共に門は貫かれ、粉々になる。虎五郎は石段を転げ落ち、龍弥が空中で一転した後、その10メートル先で着地、虎五郎は右手で何とかライフルを掴み、立ち上がり、口を右手の甲で拭うと、血を吐き捨てる。


 変幻自在のトリックスター……その異名通りの動きだった。


 龍弥は両手を大きく、真っ直ぐ横に広げると、今まで隠していた力を解放する。


 「コードアクセス、リミッター解放レベルマックス。スラスターウォームアップ、レンジ修正、オールクリア!!」


 制御システムにアクセスし、制限の全てを取り払う。全身が赤く光を放ち、腕に暴走した熱量が纏わり付き、ソレら全てが力へと変換される。龍弥は構えを取り、正面から全力で走り出した。


「さあ、振り切るぜ!!」


 虎五郎がリロードし、薬莢が下に落ちる。そして照準を定め、一ノ狙撃。龍弥は体制を低くし、右へと一歩ズレ、回避する。二ノ狙撃。龍弥が石畳を蹴り上げ、3メートル上空へ縦に反転しながら飛翔。虎五郎も再びリロード、薬莢は石畳を跳ねる。


 これは避けられない、コレでお前は最後だ!!


 虎五郎の確信を持って三ノ狙撃、回転の動きの為か、頭を狙った鋼の弾丸は、覆面の横をかすめる。覆面が熱で焼き切れ、素顔が晒された時、虎五郎は顔を銃から離し、その目を大きく見開く。


 ーーそんな、馬鹿な!!


 その隙に龍弥は後ろから着地し、横に二回転して勢いを殺しながら近づき、右の銃口を虎五郎に向ける。


 その銃弾は無情にも放たれ、四方へと大きく飛び散る血飛沫と共に、その戦いに終焉を告げた……。


 


 

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