パパラチア・ワンダーロード(1)
(なーにが元気かね、ラウちゃん……なんでしょうね。本当に、白髭は俺の事を何だと思っているのでしょう……?)
不機嫌の波長に合わせるように、カトンカトンと列車が刻む一定のリズムに身を預けながら。不貞腐れつつも、車窓の景色を見やる。そんな窓の外には、収穫期が終わった麦畑のやや輝きを失った褪せた金色が広がっていた。それはある意味で、美しいはずの景色なのだが。しかして、見事な車窓の風景にも関わらず、ラウールはため息1つつきながら……窓を曇らせると同時に手元の手紙をもう一度、確認し始める。そこには、ムッシュからの指令内容が事細かに書かれているが……あろう事か「可愛い孫」に泥棒の依頼をしてくる時点で、頭が痛い。
自分の興味が赴くままにターゲットを定めるのはいいのだが、気分も乗らない仕事ともなれば、話は違う。そもそもラウールにしてみれば、ターゲットを盗み出すのは最終目的でしかなく、あくまで前段階のスリルと余興が何よりも重要なのだ。それなのに、こんな風に外野からあれこれ口出しをされたのでは、興醒めもいいところで……何れにしても、大抵のことは気に入らないラウールにとって、ムッシュのご要望は不愉快以外の何物でもなかった。
(とはいえ、仕方ありませんね。……この宝石が本物だった場合は、間違いなくそっち側のヤツでしょうし……依頼料も悪くありませんでしたし、お仕事はきちんとしましょうか)
ムッシュが依頼してきた内容によると、美術館のあるコレクションが偽物とすり替えられていたのが分かったとのことで、本物を「盗み返してほしい」ということらしい。そして……それを美術館に返す前に鑑別してこい、というのが本当の狙いみたいだが。美術品に使われている宝石の通称名が「ワンダー・パパラチア」だとなっているから、なんとも怪しげだ。
(ワンダー……ですか。おとぎの国でも、魔法の国でもいいですけど。そういう眉唾モノの発想は、ソーニャの頭の中だけにしてほしいですね……)
パパラチアというからには、きっとサファイアの類なのだろう。本物だとしたら、相当の価値がある事は間違い無いが、残念な事に“パパラチア・サファイア”は天然で美しい夕陽色をしているものは滅多に出回らない、希少な宝石なのだ。だから、その通り名にどこか胡散臭い物を感じては……多分偽物だろうなと、雑多な事もひっくるめて早々に諦める。それにしても……美術品を盗み出した犯人の目的が気になるところではあるが、その調査も含めての今回の依頼なのだから、それなりに楽しまねば損だと思い直す。折角の機会なのだし、この際だから美術館巡りも悪くない。




