モノクローム・シャトヤンシー(4)
「お帰りなさい、モーリス様。……お墓参りはいかがでしたか?」
「うん、無事に済んだよ。ついでに白髭様とお話ししてきたから、少し遅くなってしまったけど……ラウールはどうしてる?」
「予想どおり、塞ぎ込んでおいでですわ。……全く。店番を私に押し付けて、自分は窓際でボーッとしているのですから。いいご身分ですこと!」
「あぁ、そうだったんだ。ラウールのせいで、ソーニャにまで不愉快な思いをさせて、ごめんよ」
「別に構いませんわ。……その理由は私もある程度、聞かされておりますし」
同類というのは、話が早いからつくづく助かる。本来であれば、自己紹介から始めなければならないのを、雑多で複雑な事情ごとショートカットできるのだから……これ以上に同居人として、理に適っている相手もいないかもしれない。
カケラ達の存在は表向きはなかった事にされており、彼らの存在を知っているのは王族内でもごく一部の関係者と……コレクターの貴族くらいのもの。そもそも……彼らが生み出された経緯も、最初は不老不死の研究が発端だったはずだ。
それがいつしか、コレクション対象としての道楽に変貌していった一方で、兵器利用としての開発も秘密裏に行われていて……何れにしても、エゴイズムの塊でしかない研究において、“彗星”の適正基準などは考慮されることもなかった。その結果、完成度の如何にかかわらず、大勢のカケラ達が無計画に生み出され……モーリスもソーニャも、その他のカケラ達も。用途や目的は異なるが、全員まとめて研究の犠牲者であることだけは、見失いようもない現実でしかない。
「ラウール、ただいま。……あれ? ラウール? ……いないのか?」
とりあえず、弟の顔色を確認しようとモーリスは2階に上がるものの。そこにラウールの姿はなかった。開け放たれた窓からはやや湿り気を帯びた秋風が上がり込んでは、カーテンを緩やかにそよがせている。そろそろ闇が降りるだろう色に染まっているテーブルには……どこか置き去りにされたように、彼の商売道具がきちんとケースに収まって並んでいた。
しかし、その中で1つだけ……とあるマスクがないのにも、すぐに気付く。不自然に置き去りにされた商売道具の様子に、1つの合図をしかと受け取ると、仕方のない奴だと肩を竦めるモーリス。きっと彼は……夜の空中散歩に出かけるついでに、きちんと花の追加でもしてくるつもりなのだろう。




