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ヒースフォート城のモルガナイト(17)

 柔らかな赤みを帯びた日差しに照らされ、頬を紅潮させている様に見える“ハイデ”と向き合うものの。そこに掲げられているタイトルは『Heide Porträt』とある。そうなると、キャラウェイは「ハイデ」の意味を取り違えていただけなのだろうか。しかし、それにしては……。


(……更に分からなくなってきました……。あの手記の書きっぷりを見る限り、キャラウェイはそう、無学でもなさそうなんですよね……)


 走り書きながらも、エスプリの利いた言い回しに、的確な情景描写。一介の画家の割には、所々に確かな教養を垣間見せる筆致を見るに……キャラウェイは単純なスペル違いをする人物ではないように思える。


「もうそろそろ閉館ですよ、お客様」

「あぁ、もうそんな時間ですか……」


 ラウールがハイデの前で頭を捻っていると、秘密の邂逅を切り上げろと背後から指示が入る。その声に仕方なく、撤退しようと振り向くが……そこには柔らかな面差しをした、あの初老の紳士が立っていた。


「なるほど。……君もハイデの足跡を辿っていたのですね」

「えぇ。正直に申せば、そんなところです。……彼女が何者なのかはなんとなく分かったのですけど、ジェイが人嫌いになった理由との関連性が未だに見えないんですよね……」

「おや、嘘はおよしなさい。君も……“高嶺のモルガナイト”を追ってきたのではないですか?」

「……そこまでお見通しですか。ニックさんも意外と、意地が悪い」

「ホッホッホ。そうでもありませんよ。……これから丁度、管理人室で()()()()をするところなのです。……良ければ、手伝ってくれませんかね?」


 詰るラウールの言葉に嬉しそうに笑いながら、資料整理の手伝い(話の続き)のお誘いをかけるニックの提案に、2つ返事で応じる。どうやら……目の前のヒースフォートの学芸員は、()()()()()()も何となく知っているようだ。


***

「ここの資料は、この箱でいいですか?」

「えぇ、結構。……本当はここは部外者を立ち入らせるのも憚られるのですが、なにぶん私も歳でしてね。助手もいないものですから、重い荷物をまとめるのも一苦労です。ですが、そのままにしておけない事情もありまして……」

「……?」

「あぁ、そうそう。そう言えば……私のフルネームをお伝えしていませんでしたね。私はニック・バルデス・キャラウェイと申しまして。……先ほどの肖像画を描いた画家の子孫にあたります」

「あぁ……そういうことでしたか。でしたら……手記と肖像画のタイトルの綴りが違う理由もご存知で?」

「存じていますよ。というよりは……肖像画のタイトルはジェイが彼女が好きだった花に因んで付けたものでしたし、最初は彼もハイデの存在を大々的に残す気もなかったようですけどね」


 そんな事を呟くついでに、ポツリポツリと昔話を語り始めるニック。その昔話は……ラウールの求めていた答えに対して、充分すぎるほどの余韻を残すものだった。

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