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ヒースフォート城のモルガナイト(14)

 誰もいない夜の静かな散歩……と思っていたが。思いの外、人出は多いらしい。昼間は人もまばらだったはずの見張り塔は、ちょっとした名所(デートスポット)になっているらしく……周りは見事にカップルだけなのが、非常に気まずい。


(これでは、調べ物も満足にできませんねぇ……)


 いかにも充実しています、と言いたげな顔をした彼らの邪魔をする気はないが。この調子では、塔に登るのは明日に改めた方が良さそうだ。

 そんな事を思い直すついでに、妙案が思い浮かぶ。この後はもう1度……()()()()()()にこっそり会いに行ってもいいかもしれない。

 そう思いながら、仕方なしにとりあえず見張り塔に登る事もなく、周囲を一周してみる。形は六角形、大きさは一辺あたり9〜10メートル程と、意外に大きい。後から建てられた見張り塔にしては、随分と本格的な作りをしている……と思っていた矢先に、どうも階段部分と塔本体の石材が異なる事にも気づく。次々に仲睦まじく塔を登っていく彼らを尻目に、その手が撫でる手摺りは数多の摩擦で滑らかになっているが……多分、材質自体がやや柔らかいものでできていると考えていいだろう。


(この石肌ですと……本体は安山岩でしょうが、この微妙な艶はもしかして……大理石ですか? いくらなんでも、こんな野晒しの場所に大理石を使うなんて……)


 そのミスチョイスになるほど、と唸る。おそらく、階段部分は観光向けに後からくっつけたものなのだろう。しかし、手入れも中途半端な大理石は輝きを保つ事もなく、見るも無残な状態だ。そうなると……この()()は、しっかりと塔の石材に安山岩を選んだジェイの手によるものではなく、後世のオーナーが見せ物用に作ったものと見て、間違いないだろうか。そんな事を渋い思いで眺めていると、横に申し訳なさそうに立っている“アルボレア”も……どこかお手上げポーズに見えてくるから、不思議だ。


(だとすると……この建物、そもそも見張り塔でもなかったという事でしょうか?)


***

 予想の答えを確かめるべく、塔の調査もサッサと切り上げ(諦め)、秘密の面会に赴く。閉場している展示スペースにこっそり忍び込むのは、気分もあまり良くないが。今日は()()に入っているわけではないし……このくらいは許して欲しい。そんな少々勝手な事を考えながら、気になるあの子の前にやってくれば。彼女はあの日と同じ、柔らかな微笑でラウールを迎えてくれた。


(この背景に描かれているのは……形といい、立派な“アルボレア”といい……)


 彼女の背後に聳えているらしい建物はやや抽象的ではあるものの、おそらく六角形をしているらしいことと、何やら扉がくっついている事にも気づく。その描写に、あの見張り塔はきっと……。


(あぁ、そういう事ですか。あの建物は……彼女を匿うのに使っていたんですね)


 もし、目の前で微笑むハイデがカケラであるのなら。それなりの経緯(流通ルート)でジェイの手元にやってきたと考えていい。かつて……女性のカケラ達は“宝石人形”という商品名で、闇市の競売に出品されていたのは、紛れもない事実だ。そんな宝石人形達を所持するのは、相当のステータスであったと同時に……非人道的だという理由で、取り締まりも厳しかったと聞く。だから、彼女を手放したくなかったジェイはこっそりと彼女を()()するために、あの見張り塔を建てたのだろう。

 だが……おそらく、そんな経緯でやってきていたと思われる彼女の表情には、身売りされた悲壮さは微塵もない。どこか慈愛に満ちていて、どこまでも安心し切った柔らかな微笑。そのピンクの面差しに、ようよう“高嶺のモルガナイト”の真意を思い知る。おそらく、ジェイにとって彼女は……まさに高嶺の(ハイデ )だったのだ。

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