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全ての宝石達に愛を込めて(11)

 火を吹くのは、コランダムの得意技。だが、色は違えど、黄昏の得意技も火吹きらしい。黄昏の性能を発揮できる様になったヴァンが吹き出すのは、柔らかでどこか生ぬるい金色の炎。しかしながら、憎らしいほどに辺りを煌々と照らしては、まるで炎自体が意思を持っているかの様にアルティメットを確実に追い詰める。


《くそッ……! こうして、完成したというのに……まだ、太陽には届かないと言うのか⁉︎》


 原始太陽に擬えて、自分自身の密度を高めていたというのに。目の前で小癪な様子で自分に火を吹く黄昏の竜神を見つめては、アルティメットはギリリと激しく牙を鳴らす。自前の核融合に至るまではもう少し、何かが足りない。いや……今は()()()を取り込んだが故に、灼熱からは一寸後戻りしたと言っていいだろう。


《糧を残しておくつもりだったのだがな……仕方がない! ここで先んじて、お前達を焼き尽くしてくれる!》


 熱を出すには、餌が必要だ。だからこそ、アルティメットは目の前の4人をおやつ(最後の燃料)にしようかと、弱らせる程度で済ませようと考えていた。だが、5人目の乱入で状況が大幅に変わる。自分よりも透き通った光で辺りを照らし、寄生木の矢のように自分を確実に追い詰める炎を吐く竜神は、()()()()()アルティメットへ決定打を番え続けて見せた。アルティメットにしてみれば、ここまで相性の悪い相手がいるなんて、それこそ想定外だ。


《こんな事で……諦めるわけには行かぬ……‼︎》


 だが、アルティメットは諦めが悪い上に、少々先を急ぐ性質を持つ。そうして、()()()()を諦めたように小さな体から甘ったるい腐臭を撒き散らし、アルティメットが息を吹き出した。ここにきて、更に街を炎上させようという魂胆には、もう上がる頭もないが。自分のことしか考えていないアルティメットにとって、燃やし尽くす予定の街の存続など、考慮の範囲外である。


《爆ぜろ! この痴れ者どもがッ!》


 そうしてアルティメットが渾身の腐臭を吐き出した、次の瞬間。ルサンシーがいち早く彼の前に躍り出ると、体を丸めて身を震わせ始める。どうやら、暴君の攻撃に対抗するつもりらしい。


【ルサンシー殿⁉︎】

【フランシス様ニ……ミンナモ下ガッテ! ココハ僕ニ任セテ頂戴!】


 本当は危なっかしくて、使いたくなかったんだけど……と、苦笑いすると同時に、今度はルサンシーが鮮烈な光を放つ。


【ミンナ、目ヲ閉ジテテ! シッカリ、耐エテクレヨ!】

【ルー……まさか! とにかく、ミンナはマルくなって、メをトじろ! ルーのコウゲキにタえないと!】


 防御の対象がアルティメットの攻撃ではなく、ルサンシーの攻撃とは、これいかに。だが、ダイヤモンドの能力を知っているらしいイノセントが自分もいの一番に体を丸くして、頭を抱えて目を閉じる。他の4人も彼女に倣うように、地上で大人しく丸くなるが……。


【フフッ……行クヨ!】


 甘ったるい吐息を撒き散らしているアルティメットの息吹を拒絶するように、鱗を逆立たせるルサンシー。ますます耐え難い閃光を纏いながら、鋭利な鋒となった鱗を飛ばし始めた。その瞬間、地上で蹲っている味方の周囲にも激しい鱗の雨が着弾すると同時に、爆発するではないか。だが、彼らの周囲に降るのは、どこまでも()()()でしかない。そう……ルサンシーのターゲットはあくまでも、暴君である。


《……! 貴様……朕よりも先に、核融合を……!》

【オヤ……僕ハソコマデ(核融合)ハシテナイヨ? コレハタダノ爆弾。放射能ナンテ撒キ散ラシタラ、折角ノ綺麗ナ世界ガ汚レチャウジャナイカ。マァ……ココマデ攻撃範囲ガ広イト、説得力モナイケド】


 だが、ルサンシーの攻撃は鱗を犠牲にしていることもあり、連発はできない。しかも、攻撃範囲が非常に広過ぎるために、使い所も非常に難しい。現に……強烈な光が収束すると同時に、ラウール達があたりを見渡せば。さっきよりも更に破壊が進んで、更地になりつつある街の風景が彼の攻撃の凄惨さを物語っている。


【(……ナンテ威力ナノデショウ……! コレガダイヤモンドノ実力……)】


 その上、ルサンシーの言葉からするに……この攻撃手段には更に上があるらしい。ルサンシーが自重していただけで、彼が本気を出せば、この世界は有無を言わさず消し炭となるだろう。


《くっ……! しかも……どうして、避けられない……? 朕は完成したはずなのに……!》

【アァ、ソレハヴァン君ノオ陰カナ。彼ノ矢ハ、鎮圧効果ガアルンダヨ。アンタノ動キガ鈍クナッタノハ、ソノセイサ】

《小癪な! そもそも、何故、そいつの攻撃だけ見切れぬのだ⁉︎ 朕は完璧に……》


 完成したはずなのに。どの来訪者、どのカケラ達にも侵食されない優位性を獲得したと言うのに。

 さも解せぬと、アルティメットがボロボロの姿で惨めに喚く。そんな彼を前にして……これが同類のダイヤモンドの姿かと思うと、ルサンシーには別の意味で笑えてくる。


【ソウソウ、知ッテル? 黄昏ノ彗星(トワイライト)ニハ、悲シミヤ嘆キを感ジ取ッテ……追尾スル能力ガアルンダヨ。ダカラ、ヴァン君ノ攻撃ハ避ケラレナイ】

《ハッ、何を言う! 朕にそんな感情があるはず……》

【誰ガアンタノ悲シミダッテ、言ッタノ。……アンタが取リ込ンダ、王子様トスペクトロライトガ、目印ニナッテイルダケサ】

《……!》


 アルティメットは自身が完成するために、不純物を取り込み、養分として吸収せしめた。だが、個々の意思はどこまでも融和することのない、インクルージョンでしかない。アルティメットの意思とは別の禍根となって、彼の内部に居座り続けるだろう。


【サ、後ハミンナニ任セルヨ。……ココマデ削ッタラ、モウ一息ダ】


 見れば、ルサンシー自身も相当に鱗を消費して、消耗している様子。そんな彼にこれ以上無理をさせるわけにはいかないと、ルサンシーが地上に降りてくるのと入れ替わるように、他の4人が再び空へと舞い上がる。


【よっし! こうなったら、テッテイテキに叩クゾ! クフフフ……! デビルハンターのデバンなのだ!】

【イノセント、ココデ無駄ニハール君ヲ気取ル必要ハナイノデスヨ】

【ブゥ〜ッ!】


 さっきまで自己犠牲を覚悟していた娘は、悪魔退治気分をぶり返したらしい。それでもヴァンという糸口と、ルサンシーという前例を示されて。ラウール達は最後の()()()に、取り掛かる。やっぱり、ダイヤモンドは的確にカットしてこそ、輝くというもの。ここは暴君が濁りのないブリリアントカットになるまで、削ってしまうのも一興だ。

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