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全ての宝石達に愛を込めて(10)

【グアッ……! ケホッ、ケホッ……】

【ラウール君、大丈夫カイ⁉︎】


 アルティメットの暴走を止めようと、果敢に若い紫竜が挑みかかるが、最早実力の次元が違う。コンパクトになり、新しい体の調子も()()()()()()もいいらしい今のアルティメットには、決定打どころか攻撃を掠らせることさえできなくなっている。一方……アルティメットの攻撃は精度も上がっており、4人の竜神達をたった1人で圧倒し始めていた。


【クッ……! このままではオしマけてしまう……。シカタない……ラウール! ワタシをトりコめ。……そうすれば……】

【何ヲ、馬鹿ゲタ事ヲ言ッテイルノデス! ()ヲ食ラウナンゾ、趣味ガ悪イニモ、程ガアル!】

【だけど!】


 目には目を……という訳ではないが。同類の吸収こそハーモナイズ(アレキサンドライト)の領分だろうと、イノセントが捨て身の打開策を提案し始めた。しかして、ここぞとばかりにイノセントを娘扱いして、ラウールはそれだけは絶対にしてなるものかと、猛然と首を振る。


【しかし、ラウール。このままじゃ、ミンナおシマいじゃないか……。だったら、ワタシヒトリでスむのなら、それで……】

【ソウダトシテモ、アナタヲ犠牲ニシテ守ッタ世界ニ、何ノ価値ガアルノデス。……家族ヲ()()()()()()()()、モウ懲リ懲リナンデスヨ……!】


 父さんも、母さんも……そして、ジェームズも。

 別れだけは憎らしい程に平等にやってくるとは言え、もう少し()()()()()()というものがあるだろう。そこに更に凄惨な別れを追加するなど、金輪際願い下げだ。


【……取リ込ムト言エバ、アルティメットコソヲ丸メ込メレバイイノデショウケド……今ノアレニ、ソンナ融通ハ利ナカサソウデスカネ。マダマダ、元気タップリノヨウデスシ】


 フランシスとルサンシーの2人が、辛々とアルティメットの相手をしているのを見上げながら……まだ、本領を発揮する事はできないだろうと、ラウールは自身の本能に探りを入れていた。

 本来であれば、ハーモナイズは(スーパーノヴァ)に瀕した来訪者を包み込み、融和へと導くことで最期の時を慰めるのが役割である。だが、かの暴君は死に瀕するどころか、ますます勢いづいて調子に乗り始めている。彼にしてみれば高笑いが止まらないらしい状況は、こちらとしては絶望的な光景だった。


【そもそも、あいつはどうして、ダイヤモンドイガイをトりコめるんだ? ズルいだろ! ズルだ、ズル!】

 

 耳障りな高い声を響かせるアルティメットを憎々しげに睨み、イノセントが毒づく。

 イノセントにしてみれば「ズル」らしい、彼の吸収は……確かに、普通であればあり得ない事。彼女が「ズル」だと騒ぐのも無理はない。だが、現実にアルティメットは実際に完全に異質であるはずのスペクトロライトを取り込んで、きっちりと馴染んで見せた。そして、その完璧なる融合を支えているのはおそらく……。


【アレン様ノセイ、デスカネ。……アレン様ガ、石座の役割ヲ果タシテイルノデショウ】


 基本的に異なる鉱物グループの核石を取り込む事ができないのは、ハーモナイズという例外を除けば、カケラも来訪者も変わらない。だが、アルティメットは心臓を削られていたため、()()()()()が可能な状態だった。そして、ロンバルディアの王族という核石に完璧な拒絶を示す存在を()()とする事で、アルティメットは自身の素地を損わずにスペクトロライトの完成品(間際)の核石を取り込むことに成功していたのである。


【しかも、あいつ……まだ、チヂむつもりみたいだぞ……?】

【濃縮モプリミティヴノ効果ノ内、デスカ。ヤレヤレ……タダ縮ムダケダッタラ、イイノデスケド。キット、ソウデハナイノデショウネ……】


 ラウールを支えながらも、イノセントが暴君の更なる縮小に焦りを見せる。そうして、ラウールも痛みを精一杯堪えて、首を上げるが……彼自身はそろそろ、限界を迎えつつあった。


【(コレ以上長引クト……俺ハ元ニ戻レナイカモ知レマセン。デスケド……)】


 それこそ、自分が朽ちようとも。この世界には守りたいものが、たんまりとある。かつてはどうでもいいと思っていた玩具箱()には、今やオモチャ程度では決して済まない宝物がぎっしり詰め込まれていた。それなのに……ダイヤモンドの暴君は、全てを犠牲にして自分だけ輝こうとしている。


【……グルルルル……! コレ以上、壊サセヤシマセン……! 愛ダナンテ陳腐ナ感傷ヲ語ルツモリハアリマセンガ、コノ世界ハ燃ヤシ尽クスタメニアルノデハアリマセン。……皆デ、生キルタメニアルノデス……!】

【ラウール……? よ、よせ! それイジョウ、カクイシをウけイれたら……!】


 理性が死んでしまう。ラウールの自我が殺されてしまう。

 イノセントは慌てて、ラウールの侵食を抑えようと声を荒げるが、彼の決意は固い様子。胸に手をやり、核石に自身を喰らうことを促しては……息を乱し始めた。


【心配シナクテモ、大丈夫。……グル……ッ。ソレコソ、俺1人デ済ムノデアレバ……】

【それをシンパイするなとイうホウがムリだろう! この、ラウールの……】


 スカピントン! ……と、いつもの調子はずれな罵倒をイノセントが浴びせた刹那。彼女の声を掻き消すように、柔らかな色の閃光がアルティメットに命中する。それまで攻撃を鮮やかに躱していたアルティメットの体勢をグラリと崩す一撃が放たれた方を見やれば。幕引きの夜明けにはやや早い黄昏色の竜神が1人、獰猛に牙を鳴らしていた。


《貴様、まさかあの時の……!》

【フフフ……オ待タセシマシタ。真打登場ノオ時間デスヨ!】


 コンパクトな虹色の暴君(アルティメット)と、スリムな黄昏の竜神(ヴァン)。顔を合わせた瞬間から睨み合っては、相性が最悪であることをこれでもかと知らしめる。そんな頼もしい助っ人に……ラウールはまだまだ自分も諦めなくてすみそうだと、ようよう体を起こした。

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