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全ての宝石達に愛を込めて(2)

「騎士団長! 中央街の封鎖、完了致しました」

「ご苦労ですわ、アンドレイ。あとは……残っている市民の救護と、避難を急ぐのです!」

「承知しました。ヴィクトワール様もくれぐれも、ご無理をなさらぬよう」

「ふふ……おかしな事をおっしゃるのね、アンドレイ。……こんな時にでも無茶をしなければ、()()()()が聞いて呆れますわ」


 夜空で3頭の竜が組んず解れつと、取っ組み合いをしているのを見上げながら。愛車の小型タンクを乗り回して、市街地の避難指示と鎮静化にやってきたのは、ロンバルディア騎士団団長・鋼鉄のヴィクトワール。しかしながら、分類としては「ただの人間」でしかない彼女には空のソワレに混ざるべく役も、力も用意されていない。


(それでも、私がすべき事をするまで。ラウール様、ご武運を……!)


 戦線に加勢できないのなら、せめて後方支援だけでも。それでなくても、生粋の来訪者であるイノセントはともかく……無理をして彼らに混ざっているラウールには、確実に()()()()()()が必要になる。ヴィクトワールはそれを見越したブランネルから、大切な(貴重な)(クリソベリルの原石)を預かっているのだ。舞台女優としての配役はなくても、騎士団長としての役目は持ち合わせている……それが彼女が危険な魔竜達が織りなす、共演の舞台袖に留まる理由である。


「ヴィクトワール様!」

「あぁ、クリムゾン様もご無事で何よりですわ。それはそうと……もし宜しければ、状況の詳細をお伺いしても?」

「もちろんです。()()からもホワイトムッシュに、状況を伝えるように言われて参りました」


 舞台裏で気を揉むヴィクトワールの前に舞い降りたのは、主要キャストの1人でもある深紅の怪盗・クリムゾン。優雅にカーテシーをして見せながらも、きちんと緊急事態でもあることを理解しては、手短かつ、的確にヴィクトワールに状況の報告を寄越す。だが……。


「お、おい……あれ、まさかクリムゾンか?」

「本物……?」

「しかも……これ、どういう組み合わせなのかしら?」

「騎士団長と怪盗が一緒にいるなんて……」


 どうも避難途中の市民の視線には、真っ赤な彼女の姿は刺激的過ぎる。それでなくても、騎士団長の出陣を間近で見られる機会も、そうそうないと言うのに。更にミスマッチにも程がある、噂の怪傑が姿を見せたともなれば……漏れなくゴシップが大好きな良民の皆様が、逃げるのを忘れるのも無理らしからぬことかも知れない。


「うふふ、驚かれまして? これで……私、ヴィクトワール様とはちょっとした()()がございますの。こうしてたまに、()()()()になっていただくのですわ」


 しかし、そこは何かと機転と気が利く淑女というもの。普段は難物の旦那様を手玉に取る掌を、市民の皆様にも差し伸べて。クリムゾンが茶目っ気たっぷりに、エスコートを申し出る。


「まぁ、そのご様子ですと……皆様は、私に興味津々なご様子ですわね? ふふ……なんだか、照れてしまいますわ。折角ですし、しばしの間、逃げ道をご一緒してくださいませんこと?」


 要するに、それは「一緒に避難しましょう」というお誘いである。思わぬ()()()()()()()に興奮する、皆々様だったが……しかしながら、クリムゾンにはそこまで彼らと馴れ合う気もない。颯爽と屋根の上に飛び上がると、こっちへいらっしゃいとばかりに、意味ありげにウィンクする。


「こちらですわ、皆様。うふふ……私についていらっしゃい!」

「あっ、待ってくださいよ、クリムゾン!」

「色々、聞きたいことが……」


 きっと、途中(安全な所)まで付き合った後は戻ってくるのだろうな……。付かず離れずの距離を保ちながら、ギャラリーを誘導し始めるクリムゾンの意地悪な仕打ち(お節介)を見上げて、ヴィクトワールはつい、苦笑いしてしまう。彼女の方こそ、誰よりも彼が心配だろうに。本当は、側で見守っていたいはずだろうに。


(あぁ……いえ、違いますわね。キャロル様はそれこそ……()()()()()()()ですもの。心配以上に、ラウール様を信頼しているのでしょうね……)


 強気と気丈がクリムゾンのトレードマークであり、身上。その上、婿殿が時折嘆いていたように、誰彼構わず、分け隔てなく世話を焼いてしまう悪癖まで持ち合わせている。この場合はどちらかと言うと、心配しなければならないのはグリード側の方かも知れない。


「さて……と。私はもう少し……進みましょうか」


 既に火の手が上がっている市街地は、戦場へと変貌し始めている。本物の戦争を経験したことがないヴィクトワールにとって、生々しい戦地の光景は気分を高揚させると同時に、引き締めさせる。ここから先は、間違いなく死地……魔竜達の暴風域。それでも、お届け物はきちんと運ばなければと、ヴィクトワールは戦車の中へ再び潜り込むのだった。

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