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牙研ぐダイヤモンド(24)

「おっ、お待ちになって! 私とて、別に……こ、殺そうとしたわけでは……」

【ほぅ? イキヨウヨウとグスタフを()()()()()()()()ナドと、()()()()()のはどこのダレだったか?】


 怒りで鱗を逆立てる竜神にはにべもなし、彼女の瞳と同じ青の炎からは逃げる術もなし。Pour oil on the blue flames……今更言い逃れしようとも、怒りの権化と化した白竜の咆哮に油を注ぐだけである。


【キサマがジェームズのカコをムダにし、グスタフのミライをウバったコトはウタガいようのないジジツ。バケモノのスガタですら、イきるカチのないヤツが……ワがホノオからニげられるとオモうな!】

「い、いやぁぁぁ!」


 尚、非常に素敵なことにエリーメルダの体は特殊金属でできた特注品。主成分の片方であるクロムは可燃性の金属ではないが、片やチタンは可燃性である。燃えないクロムが逃がせない熱と、燃えるチタンの直接的な熱とで、エリーメルダの体が鎮火することはなさそうだ。

 しかし、そんな御託も()()の前では無意味なのかもしれない。竜神様の怒りはあっという間に灼熱の青となっては易々と2000℃に近い超高熱を叩き出し、可燃物だろうが不燃物だろうが、全てを燃やし尽くしてみせるだろう。


「熱い……熱い! こ、ここは……あっ」


 奥に引っ込んで、ギュスターヴに痛みの肩代わりを……と考えるエリーメルダだったが、既に精神だけの逃避も許されない。何せ、痛みを引き受けてくれる精神はさっき、自分の手で首ごと縊り落としたばかり。今のエリーメルダは神経的な感覚で動いているだけの、恐怖の首無し妖精・デュラハンそのもの。ただし、()()()()()()()()()()が死を予告するのは他人ではなく、自分に対してだが。


【さぁ……カクゴはいいか! このまま……ッ⁉︎】


 そうして逃げ惑い、万策尽きたエリーメルダに最後のトドメをくれてやる……と、息巻くイノセントの言葉が途切れる。どうやら、もう片方の竜神様(アルティメット)他の竜神様(イノセント)活躍(大暴れ)が妬ましいらしい。クワッと大きな口を開けたイノセントの横腹に、騙し打ちの衝撃が走る。


【グリード! おマエ、ナニをテこずっている! こいつをきちんとシバりアげておかんか!】

「そうしたいのは山々ですが、仕方がないでしょう! ダイヤモンドに劈開を埋められたら、地道に削るしかないのですから!」

【フン……ナサけのない。まぁ、いい。ヨウするに、おマエはワタシをクダそうとイうのだな? グルルルル……チョウシにノるなよ、デキソコないのシッパイサクが!】


 今は()()に気を取られている場合でもないことを咄嗟に判断すると、イノセントは尻尾で強烈な一撃をアルティメットの腹に叩き込む。だが、流石に相手はダイヤモンドの究極体(一歩手前)である。多少よろけはしても、遥かに小柄なイノセントの攻撃ではびくともしない。


【ギュルルルル……!】

【……コトバもモたぬ、ミジュクモノが。スウコウなワレらの()()()()()もいいトコロだな……?】


 レーヴァテイン(クリムゾン)の拘束と、ミストルティン(ヴァン)の追撃とで若干動きが鈍くなっているが。どうやらアルティメットは、カケラ達の必死の抵抗をものともせず、自分の輝きを脅かす同類(来訪者)こそを好敵手と定めた様子。彼は言葉を持たない分、本能にも忠実らしいダイヤモンドの魔竜はとうとう、自分だけが輝くために……恐れ多くも、オーバーロードを沈める決断をしたようだ。


【ジャマダてするな! キサマなんぞ、セカイもごシュジンサマも、おヨびでないわ! グリード! いったん、クリムゾンをヒっコめろ! おマエは()()()()()()()()()ジュンビをしておけ!】

「承知しました! 核石へのアプローチ、頼みましたよ!」

【ふんッ……! イわれずとも、ワかっている!】


 それでなくても、イノセントは思い出の地(ブランローゼ城)では狩られる側の立場だったことがある。故に……かつて身を持って体感させられた、堅牢な竜神の削り方(機能停止方法)くらい、心得ている。そうして互いに牙を剥き、唸り声を上げる2柱の竜神が、激しくぶつかり合い始めた。


「……! これは……凄まじい衝撃ですね……! 大丈夫ですか、クリムゾン」

(は、はい……! 大丈夫です。私はまだ、行けます)


 手元で健気に輝く魔剣を撫でながらも、勇猛な白銀の竜神を見上げるグリード。そうして、やれやれとため息をつきながら……ちょうど空いている右手に、一応の奥の手を握りしめるが。……この混戦の有り様では、お馬鹿さん(拘束銃)の出番はまだまだ先になりそうだ。


「おや……グリード君も手を出さないとなると、僕もお呼びでない感じかな?」

「でしょうね。()()()()()は本来、俺達が混ざっていいものではありません。できることと言えば、竜神様に譲っていただいた好機を逃さないことくらいでしょうかね。さて……と。こちらはご要望通り、仕上げの準備をしておくとして……その前に、アレン様からは()()()()を預かっておきましょうか」

「うん? 危険物質……? あぁ、これのことか。……そうだね、青い方は譲ってもいいよ? だけど、黒い方はそれなりに思い入れがあるもんだから、できれば渡したくないんだけど」

「ですが、あなたはアレに核石を与えることで……その意思を根付かせようとしていたでしょう? そんな本人の意思を無視した横暴を見逃すわけにはいかないのですよ。彼を鎮める意味でも、オルロフの片割れとの約束の意味でも」

「片割れ……? あぁ、そうか。……そう言えば、ユアンはちょうど50%ずつで融合した変わり種だったっけね。……そう。片方は生きているんだ?」


 そうして、今度は未練がましく黒い方のダイヤモンドを撫でるアレン。さっきは安易に究極の竜神を作り上げるための餌に与えようとしていたと言うのに、いよいよ手放すとなると惜しいものらしい。それでも、何かを悟ったように肩を揺らしては……素直に2つのダイヤモンドをグリードに託してくる。


「まぁ……いいか。どうせ……今回も()()は失敗したんだろうし。だったら、ユアンはきちんと片割れに返してやってよ」

「彼女?」

「あぁ、いや。なに……こっちの話さ。気にしないでくれ給えよ。それはそうと……なんだかんだで、ユアンには色々と嫌なことや、悪いこともさせてきちゃったし。……()()()()()()、本当によく働いてくれたもの。最後くらいは兄弟のところで過ごさせてやってもいいかもね」

「……」


 いつも通りの自嘲気味な笑い声。ふふッと掠れた息を吐いては、アレンが素直に2つのダイヤモンドを渡す。そうして手渡された世にも珍しいカラーダイヤモンドは……かつて生きていたとは思えない程に、寂れた輝きを見せていた。

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