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蒼鉛の仮面に伝うは、七色の涙(20)

「大丈夫かい、ファントムさんとやら」

「お、お前は……誰だ?」

「一応は助けに来てやったのに、酷い言い草だな。まぁ、あの時はあんた……気絶してたし。俺を知らないのも、無理ないか……」


 地下道でブライアンの逃亡を手助けしたのは、他ならぬジャックではあったが。ブライアンに担がれたファントムはダイヤモンドの麻酔でぐっすり夢の中だったのだ。見ていたのはきっと()()だったろうが……彼がこんな場所で尻餅を着いていられるのは、偏にブライアンとジャックのせいである。


「とにかく、巻き込まれないうちに避難するぞ。……こんな所で、爆弾代わりにされてもつまんないだろ?」

「爆弾代わり? ……それは一体、どういう意味だ?」

(ジャック!)

「おっと、いっけね。……そいつはちょいとした、秘密だったけ。なぁに、別に大したことじゃないさ。気にするな」


 ジャックの発言は明らかに、気にするなと軽々しく受け流せるものではない。内から響く相棒の叱咤に、ペロリと舌を出すジャックだったが……口元だけのハーフマスクでは、その仕草も戯けていると言うよりは、不気味に映る。


「お前達は……何者なのだ⁉︎ 私をどうするつもりだ? そもそも……アレは、何がどうなっている⁉︎」

「そんなに一気に質問するなよ。……まぁ、いいか。あんたは言わば、()()()なんだ。ここは大人しく付いてきてくれれば、それでいい。で、ブライアンは本来の姿をちょっと出してるだけ。それから、彼女達は……う〜ん、なんだろね、ありゃ。俺にも分からん」


 青い悪竜の背後でヒソヒソとそんなやりとりをしつつ、改めて()()に視線を戻せば。角を更に1本落とされて、トライコーン(三角獣)ユニコーン(一角獣)になってしまったブライアンだった怪物に、彼に対峙するは……これまた、異形のお嬢様と付き人。

 ()()()()()1人では()()()()()()と判断したのだろう。お嬢様の方は下半身の形状を変化させたらしく、黒光りしている足の他にも、鞭のようにしなやかな尻尾を9本も出している。そして、彼女を少しでも手助けしようとしているのだろう。シオンも手に剣を携えては、お嬢様の動きに合わせて見事な連携攻撃を見せていた。しかし……。


「くっ……!」

「お嬢様、大丈夫ですか⁉︎」

「まだ、大丈夫よ。……ただ、流石にこのレベルの化け物は想定外だわ」

【バケモノにバケモノってイわれたくないねぇ、おジョウサマ! さぁさぁ、ミグルみハがされるカクゴはできたかい⁉︎】


 傍から見れば、双方共に化け物である。しかも悪いことに、ブライアンの方は周囲に対する遠慮を知らない。傲慢さも健在なら、実力に対する自信も有り余っている。暴れられればいいという、自己中心的な思考回路においては宝の山(研究資源)さえも、ただただ壊すだけのお飾りと化す。


「……こいつは結構、まずいかな。目標達成的には」

(うん、そうだろうね。このままじゃ……ここにある苗床はダメにされてしまうよ)

「仕っ方ねぇ。……いっちょ、両方一気に沈めるか。相棒、例のアレ……頼むぞ」

(分かった。()()()()になればいいんだね?)


 It takes two to make a quarrel、喧嘩両成敗……ではないにしても。()()()()()()()のこの状況を収束させるには、両者に頭を冷やしてもらう必要があるだろう。


「ちっと荒っぽくなるが、我慢してくれよ……ブライアン。その後で、好きなだけまさぐらせてやるから」

(ジャック、下品なことを言わないの。……女性に対する冒涜も甚だしい)

「……こんな所で、レディ・ファーストを引っ張り出すなよ、相棒。……残念だが、俺にはそんな紳士的な精神はないもので」


 ファントムにはジャックの呟きは独り言にしか聞こえないが……彼の手元の武器が鮮やかにバリスティック・シールドに変化したのを見届けては、それが独り言ではなかったのだと理解する。なるほど、彼の言う相棒というのは……武器であり防具でもある、漆黒のそれらしい。


「さてさて……悪い子達はみんなまとめて、お仕置きタイムと行こうかね!」

【ユアン! いつのマに……って、ウワッ! ナニをするんだ⁉︎】

「悪いな、ブライアン。……ミッション達成を考えると、お前の大活躍はチィと、具合が悪いもんで」


 飄々と嘯いて。躊躇なく新型拘束銃を大物の化け物目掛け、一発。かの白竜は、四発程の仄暗い閃光に耐えて見せたが。ブライアンはどこまでも来訪者(オリジン)()()()である。たったの一撃で、元の姿に強制的に進化させられた同胞を見つめては、やれやれとジャックは肩を竦める。そして……。


「……お嬢さん達も、こいつで大人しくなりな!」

「それは拘束銃? そんなもの、私には効かなくてよ」


 ブライアンを仕留めたハンターの()()()()()()()()()()()と、拘束銃のディテールを認めては……お嬢様こと、アンリエットはさも下らないとヒラヒラと手を振る。しかし、残念なことに……ジャックの拘束銃は彼女の知る、()()()ではない。大元の材料も気質も異なる、凶暴な()()()の武器だった。


「キャァッ⁉︎ う、嘘……! どうして、私を捕らえられる……の……?」

「お嬢様⁉︎ 今、助け……」

「おっと! 心配しなくても、そっちのお嬢さんにも一発、くれてやるさ!」

「……!」


 あっという間に、3人の異形を荒々しく鎮めては。満足そうに高笑いをするジャックに、盾の姿でやれやれと息を吐くユアン。ブライアンの悪趣味も大概だが、相棒の悪趣味加減もなかなかだと思い至っては。ユアンはこのメンバーでの作戦遂行に、不安を覚えずにはいられないのだった。

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