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深きモーリオンの患え(24)

(ラウールさん、どこに行っちゃったのかしら……?)


 早めに帰って来てくださいと、きちんと念を押したのに。それなのに、一向に旦那様が帰ってくる気配がない。そうして仕方なしに、キャロルはイノセント(と、気を失ったままのダイアン)の面倒を愛犬とご近所さんの面々にお願いし、ブランネルを訪ねたが……。


(本当のことを知らされて、深く傷ついているかも……でしたね)


 ラウールがお邪魔していたと思われる部屋に残っていたのは、萎れた様子でソファに身を預けるブランネルと、困惑顔を隠せない少将・キャメロ。そして、旦那様の活躍で無事に()()()()()解放されたという、ルサンシーと名乗る新顔のカケラ。そのルサンシーの解説によれば……ブランネルの()()にショックを受けたラウールは、話の途中で部屋を飛び出してしまったという事だった。


(こういう時、ラウールさんが行きそうな場所といえば……)


 屋根の上か、空がよく見える所。それでなくても、彼には()()()()()()由来で窓の大きさと、開放感には拘るフシがある。そうして1箇所、彼の嗜好を満たしそうな場所に思い至るキャロル。確か……。


(こちらのお城には、自慢の空中回廊がありましたね。ステンドグラスがとっても素敵なのだと、シュヴァル様もおっしゃっていましたっけ……)


 きっと傷心の旦那様はそこにいるに、違いない。曖昧だけれども、妙な確信を元手に……キャロルは会食時の話題に上がっていた回廊へと、歩みを進める。そうして、意外とロマンチストな彼のこと。そこにはキャロルの予想通りと言わんばかりに、回廊の窓際でぼんやりと空を眺めながら、ステンドグラス越しの鮮やかな光を受けて……ゆらりと廊下に真っ黒な影を落とす、ラウールの姿があった。


「ラウールさん……?」

「キャロル……よく、ここが分かりましたね」

「えぇ。あなたが1人きりになる時は、決まって空が見える場所だろうなと思いまして」

「……そう」


 消え入りそうな声に、今にも泣き出しそうな顔。それでも、彼が涙を流すこともできなければ、存在感を誤魔化すこともできない。だけど、彼の表情が決して……悲しいだけのものではないのだと見抜くと、キャロルはそっとラウールに歩み寄る。

 1人になりたい。もう、この世からいなくなってしまいたい。何もかも、嫌になっていたはずなのに。呼ぶ声に振り向くついでに、自分の後ろに伸びる黒い影に視線を落としていると……その影に、もう1つの影がひっそりと寄り添うのも見つめては。……まだ、この世界にもタップリと未練があることも悟って。今度はさも情けないと、皮肉まじりで肩を揺らしてしまうラウール。それでなくても……。


「……()から、手紙を受け取りましてね。……もう、()()()()鹿()()鹿()()()なりました」

「そう、でしたか。でも……ふふ。その馬鹿馬鹿しいは……きっと、いい意味での馬鹿馬鹿しい、なのですね」

「……うん。多分ね。今更ながら、先代には敵わないことを思い知った気がする」


 大切な手紙の最後を締めくくっていたのは、()()()()()()()()()()()()が残した活躍の一幕。そんな冒険譚をはにかみながらも……ほんの少し、嬉しそうにキャロルにも披露するラウール。彼の語り口によれば、先代はあるダイヤモンドを盗み出すことで、見ず知らずのカケラさえをも救ってもいたらしい。


「……ロンバルディアの貴族が所有していたダイヤモンドは、とあるカケラの核石だったようでして。彼は盗み出したダイヤを無償で、同類のダイヤモンドへと譲ったのだそうです。……どうも、彼はこのマルヴェリアにさえも、自由に出入りしていたようですね。それからというもの、そのカケラとは個人的に交流を深めては、たまにここへも足を運んでいたというのですから……ハハ。恐れ入る」

「そうだったのですね。……ラウールさんのお父様は優しい上に、大胆な人だったんでしょうね」

「……かも知れませんね。優しいはともかく……大胆だったのは、間違いなさそうです」


……

 自慢ついでに、報告すると。僕はきちんと、怪人のオーダーはクリアできたんだ。なんと言っても、難攻不落のノアルローゼから“コ・イ・ヌール”の片鱗を持ち帰ったのだもの。彼の示したオーダーなんて、朝飯前……いや、夜食前さ。ただ……相手が顔見知りってこともあって、ちょっと後味の悪い仕事だったけれど。それでも、彼の娘・アンリエットと再会させてあげられて、結果的にはよかったと思ってる。

 そうして晴れて、僕は母さんの預け先として選ばれたことになったのだけど。母さん達と出会った瞬間、僕は僕で確信したんだ。()()()()()()()は運命の家族だと。懸命に子供達を守ろうとする母親と、母親を離すまいと僕を睨みつけてくる子供と。それを見た時、僕は何がなんでも、お前達を引き離してはならないと……お前達から母親を無慈悲に奪ってはならないと、覚悟したんだ。

 だって、そうだろう? 人間だろうが、カケラだろうが。血が繋がっていようが、なかろうが。たくさんの同じ時間を一緒に過ごしたいと願えば、それは家族も同然さ。だから、僕はお前達の仲間に入れて欲しくて……お前達と家族になりたくて、頑張ることにしたんだよ。

 ……結局、お前には嫌われっぱなしだったけど。それでも、いつもいつもお前のことが気がかりで、どうしたらお前が他の人とも問題なくやっていけるようになるのか、本当に不安だったよ。いつになったら、息子として手を繋いでくれるのか、真剣に悩んだこともあったなぁ。だけど……例え、手を繋いでくれなかったとしても。これだけは、よく覚えておいて。ラウール、僕は誰よりも君を愛している。母さんと同じくらい……いや、もしかしたら彼女以上かも。

 仮面を着けて、嘘ばっかりの怪盗紳士だったかも知れないけど。それだけは、本当のことだからね。


……


(全く、お節介も程々にして欲しいものです。……これでは、意地を張っている方が馬鹿みたいではないですか)

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