ヒースフォート城のモルガナイト(3)
(これを……あのごった返したプールで……着ろ、と……?)
用意されている部屋はツインルームが2部屋と言う事だったので、チェックインの際にモーリスの方に護衛の名目で、体良くソーニャを押し付けたはいいもののの。彼女の方も、しっかりとラウールに水着を押し付ける所業を忘れてはいなかった。どうせ本気でもないだろうと思っていたし、そもそもラウールには肌を晒せない理由があったので、水着を着ない理由は同類のソーニャも納得してくれると思っていたのだが。しかし……一応、確認しようと広げてみた水着を見つめながら、自分の詰めこそが甘かったと盛大にため息をつく。……どうして今時になってフルボディタイプの水着を着なければいけないのだろう。
(こんなひと昔もふた昔も前のデザインを、どこで見つけて来たんでしょうねぇ……。しかも、なんですか? この毒々しい色合いは……)
しっかりと懸念事項をカバーしつつも、紫とネイビーのボーダーは何かの冗談かと思えるほどに、趣味が悪い。モーリスの水着は標準的な物だった事を考えると……これは明らかに嫌がらせだろう。
(まぁ、いいや……。どうせ、俺は泳がないのだし。それよりも、モルガナイトです。今回はそちらに集中しましょう)
この城がホテルとして開業したのは思いの外、かなり昔かららしい。……押し付けられた自己紹介によると、サイモンの息子でもあったジェイが改築ついでに、夜会客を宿泊させられるようにしたのが始まりとのこと。しかし……そのジェイ自身は生涯独り身だったとかで、結局は後継者を残さなかった彼の後の代からは所有者が変わり、本格的にホテルとして運営される事になった……というのが、大筋の概要みたいだ。
そんな今はなき庭園の忘れ形見のように、庭の隅に追いやられ咲いていたエリカの色を思い出し、遠慮がちに咲く花の意味に思いを馳せる。「孤独」と「寂しさ」。まるで花言葉を隠蔽するかのような、この城の様変わりには……何か理由があるのだろうか。そして……宿泊施設への改装の際に、ジェイは庭先でモルガナイトを失くした事になっている。だとすると……その庭先が、今のどの部分に該当するのかを調べる必要がありそうだ。
(それにしても、このパンフレット……意外とお喋りですね。ちょっと内容が濃すぎると言うか。俺としては、大助かりですけど……)
そんな事を思いながら、まじまじと改めてパンフレットを見つめると。それがホテルのオフィシャルの出版物ではない事にも今更、気づく。そうして……その水着以上の嫌がらせに、いよいよ頭が上がらない気分にさせられるラウール。きっと彼女は彼女で、お邪魔虫を体良く振り払い……愛想の良い方とリゾートを満喫するつもりなのだ。
(乙女の憧れ……ですか。なるほど、月長石らしい判断ですね)
紛い物でも、例え……上辺だけの物でも。それでも、その身が砕けるまでは。それらしい感情を味わいたいというのもまた、彼女の言う……乙女の憧れというものなのだろう。




