表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
74/823

ヒースフォート城のモルガナイト(3)

(これを……あのごった返したプールで……着ろ、と……?)


 用意されている部屋はツインルームが2部屋と言う事だったので、チェックインの際にモーリスの方に護衛(悪い虫落とし)の名目で、体良くソーニャを押し付けたはいいもののの。彼女の方も、しっかりとラウールに水着を押し付ける所業を忘れてはいなかった。どうせ本気でもないだろうと思っていたし、そもそもラウールには肌を晒せない理由があったので、水着を着ない理由は()()のソーニャも納得してくれると思っていたのだが。しかし……一応、確認しようと広げてみた水着を見つめながら、自分の詰めこそが甘かったと盛大にため息をつく。……どうして今時になって()()()()()()()()の水着を着なければいけないのだろう。


(こんなひと昔もふた昔も前のデザインを、どこで見つけて来たんでしょうねぇ……。しかも、なんですか? この毒々しい色合いは……)


 しっかりと懸念事項(核石)をカバーしつつも、紫とネイビーのボーダーは何かの冗談かと思えるほどに、趣味が悪い。モーリスの水着は標準的な物だった事を考えると……これは明らかに()()()()だろう。


(まぁ、いいや……。どうせ、俺は泳がないのだし。それよりも、モルガナイトです。今回はそちらに集中しましょう)


 この城がホテルとして開業したのは思いの外、かなり昔かららしい。……押し付けられた自己紹介(パンフレット)によると、サイモンの息子でもあったジェイが改築ついでに、夜会客を宿泊させられるようにしたのが始まりとのこと。しかし……そのジェイ自身は生涯独り身だったとかで、結局は後継者を残さなかった彼の後の代からは所有者が変わり、本格的にホテルとして運営される事になった……というのが、大筋の概要みたいだ。

 そんな今はなき庭園の忘れ形見のように、庭の隅に追いやられ咲いていたエリカの色を思い出し、遠慮がちに咲く花の意味に思いを馳せる。「孤独」と「寂しさ」。まるで花言葉を隠蔽するかのような、この城の様変わりには……何か理由があるのだろうか。そして……宿泊施設への改装の際に、ジェイは庭先でモルガナイトを失くした事になっている。だとすると……その()()が、今のどの部分に該当するのかを調べる必要がありそうだ。


(それにしても、このパンフレット……意外とお喋りですね。ちょっと内容が濃すぎると言うか。俺としては、大助かりですけど……)


 そんな事を思いながら、まじまじと改めてパンフレットを見つめると。それがホテルのオフィシャルの出版物ではない事にも今更、気づく。そうして……その水着以上の嫌がらせ(配慮)に、いよいよ頭が上がらない気分にさせられるラウール。きっと彼女は彼女で、お邪魔虫(ラウール)を体良く振り払い……愛想の良い方(モーリス)とリゾートを満喫するつもりなのだ。


(乙女の憧れ……ですか。なるほど、月長石(恋人達の石)らしい判断ですね)


 紛い物でも、例え……上辺だけの物でも。それでも、その身が砕けるまでは。それらしい感情を味わいたいというのもまた、彼女の言う……乙女の憧れ(カケラの夢)というものなのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ