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深きモーリオンの患え(19)

 ラウールが家族との時間も惜しんでやってきたのは、マルヴェリア王城内で最も格調高い迎賓室。しかし、いざ行かんと部屋内に入り込んでみれば。それなりに豪奢なソファには、悲しそうな表情のブランネルに、呆れ顔のルサンシーが腰を掛けている。そして、ブランネルの横には()()を持ち帰ったらしい、疲れた様子のキャメロ少将。三者三様に浮かない顔をしているものだから、素直に状況確認をしていいものか……不遜なはずのラウールも計りかねていた。


「……あの、皆さん。どうして、そんなに湿()()()()()をされているのです。ラインハルトはどうしました?」

「どうやら……ルサンシー様のお話によると、ラインハルト様は()()()()()()()ようでして。今回の場合は……囮であった可能性が高いと思われます」

「仕込まれていた? それに、囮とは⁇」


 キャメロの断片的な言葉の真意を探ろうと、彼らが見つめる黒い卵らしき塊に改めて注目するラウール。そうして、すぐにキャメロが()()()()()()()()()()を理解する。ルサンシーがラインハルトに関して、「どうせ、こいつの未来はそう長くないだろうし」と吐き捨てたのは……要するに、()()()()を知ってのことだったのだろう。


「……ルサンシー様。彼は一体、どういう状況に置かれていたのですか? そもそも、彼には適性はなかったはずでは?」

「うん、そうだね。確かに、ラインハルトにはカケラへの適性はなかった。いや……ロンバルディアの王族は全員、とある理由から適性を持ち得ないことになっているんだよ」


 少しばかり、ブランネルに遠慮するような視線を送りつつも……ルサンシーがロンバルディア王族の血脈について、粛々と説明し始める。

 ロンバルディア王族は正統な支配者の血を引いていると同時に、古代天竜人の血統さえも色濃く残す一族。それ故か核石への適性はなきに等しく、中途半端な変化さえも享受できない。だからこそ、カケラ研究に従事する者達は大いに焦ったのだそうだ。最大の出資者であり、最大の優良客であるはずの王族にカケラ研究の最終目標である「永遠の美しさと命」を提供できないともなれば、どんなに実績を積み重ねようとも、研究は失敗したと判断されてしまう。


「それでもって、そこに目を付けたのがレディ・ニュアジュ……君達側ではミュレットと名乗っていた、スペクトロライトのカケラだったんだけど。彼女は僕やアダムズと同じく、原初のカケラの1人でね。……来訪者達の本来の願いをきちんと受け継いだ存在でもあるんだよ」

「本来の願い?」


 来訪者達の願い。彼らは一律「母なる銀河に還ること」を「理想の死に際」とし、夜空を照らす星になることを夢見る。しかして、大元の願いはその前段階……ご主人様達のための理想郷を作ることにある。

 それなのに、彼らのご主人様は既に本来の姿では存在していない。あるとすれば、ほんのりと残された()()の系譜だけ。だからこそ、彼女は王族達に「特別な存在へシフトチェンジ」する方向性を示し、先祖返りこそを目標として研究を推し進めていた。そして、一方で……ニュアジュは僅かに残された血脈(ルーツ)をかき集めて、本当のご主人様を復活させようとしているのだという。


「……そう言えば、ラウール君。君は原初のカケラと、後から生み出されたカケラの()()()()()()を……知ってる?」

「いえ、知りません。そもそも、カケラの違いと言われましても……性質量が多いか少ないか、そのくらいしか意識した事もありませんし。原初のカケラと言われたところで……純粋に、生まれた年代が古いカケラの事をそう呼ぶのだと、漠然と考えていましたが」

「そうだね。それも概ね、間違いないかな。だけど……()()()()()からすれば、僕やアダムズにニュアジュ……そして、君も条件をしっかりと満たしているんだよ」

「……俺が、ですか?」


 そこまで白状したところで、再びチラリと遠慮の視線をブランネルに送るルサンシーに、仕方あるまいとため息をつく白髭様。どうやら、ブランネルはこれ以上、()()()()を騙すのが心苦しいと判断した様子。いかにも申し訳なさそうに、ラウールに胸中を明かし始めた。


「ごめんの、ラウちゃん。本当はの……余も知っておったのじゃ。お前さん達が普通のカケラじゃない事と、何が何でも生かしておかねばならぬ()()()()()()()()だった事を。イヴはただのカケラじゃなかったんじゃ。彼女は、とある古代天竜人のクローンらしくての。そして、彼女が生み出された理由はたった1つ。お主と言う、新たな調律者……融和の彗星(ハーモナイズ)を生み出すためじゃった」

「ハーモナイズ……?」


 どこかで聞いたことがあるような、ないような。ラウールはあまり馴染みのない彗星の名に、つい首を傾げてしまう。意外にも無邪気な孫の様子に、ますます秘密を吐露するのが心苦しいとブランネルは沈痛な面持ちを崩せないでいるが。話始めてしまった以上、全てを伝える必要があると、いよいよ腹を括る。


「そうじゃ。アダムズはニュアジュの企みを知っておった。そして、彼女が究極の彗星(アルティメット)を手に入れようとしていることに感づいたあやつは、対抗手段を育てることにしたそうじゃ。原初のカケラとは、純粋に古いカケラ達を指すのではない。……来訪者達の心臓そのものを核石として持つ、宝石(ジェム)の完成品を指すのじゃ。そして……アダムズとラウちゃんは融和の彗星(ハーモナイズ)の心臓を核石として持つ、原初のカケラでもあるのじゃよ。じゃが、年齢を重ねて、形を定めてしまったアダムズはハーモナイズの能力を獲得できなかったらしくての。……自分では究極の彗星(アルティメット)の対抗手段にはなり得ないと、息子(後継者)()()()()()方向に舵を切った」


 そして、その息子こそがラウちゃんなのじゃよ。

 ため息が絶えないブランネルの言葉は続いていくが。突然の暴露に、ラウールの思考は既に置いてけぼりの迷子になっていた。あれ程までに嫌悪していたアダムズが、自分に近しい存在で……しかも、父親かも知れないと聞かされれば。流石に常々、嫌味っぽく冷静なラウールも混乱せずにはいられない。

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