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深きモーリオンの患え(4)

「急にお呼びだてして、申し訳ございませんね。ラウール王子」

「……いえ、大丈夫です。それで、ラインハルト様はどちらに?」


 それなりの覚悟をして、指定の場所に出向いてみれば。そこにはラインハルトの姿はない代わりに、スラリとした印象の執事が待ち構えていた。もちろん、ここはマルヴェリア王宮内だ。表向きは王子様で通っている向こう側にも専属執事の1人や2人、いてもおかしくはない。……しかし、ラウールに挑戦的な視線を投げてくる彼の瞳は、紛れもなく「ただのヒトではない」と誇示しているように思えた。


「主人もすぐに参りますよ。しかし……はて、何をしているんでしょうかね? あれ程までに、王子様との対話を楽しみにされていたのに」


 柔らかなプラチナブロンドに、白銀にも思える輝きを宿した瞳。全体的に色素が薄い印象はまさしく、誘拐された娘もどき(イノセント)と同じ空気を匂わせる。


(この様子はまさか……)


 この執事も同類という事だろう。ミュレットが付いている時点で、ラインハルト側にも相当の手駒がいることは予想できていたが……この特殊な輝きは、生半可な核石によるものではなさそうだ。


「ふふ……そのご様子ですと、僕の事が気になるのですか? 王子様」

「えぇ、それなりに。ですけど、今はあなたの()()を気にしている場合でもないのです。……ラインハルト様に直接、問い質したいことがございましてね。できれば、要件はサッサと済ませてしまいたい」

「おや。王子様はせっかちでいらっしゃるのですね。……そう、焦らずとも良いでしょうに」

「これが焦らずにいられますか? こちらは娘を誘拐されたままなのです。そして、ラインハルト様が犯人だと、ちょっとしたスジから報告がありましてね。……何が目的かは知りませんが、早々に娘を返していただきたい」


 無論、ラインハルトが犯人だというオフィシャルな報告は、何1つない。だが、何よりも頼りになる優秀なシークハウンドの鼻が有力な証拠を現地調達してきたのだ。……この城の中庭で、微かに嗅ぎ覚えのある芳香がしていたと。

 それは、ご近所さんの香水店で調香された、オリジナルの香り。その香水はマルヴェリアどころか、ロンバルディアでも特定の店でしか販売されていない。「真紅の悪戯」も含めて、売れ行きは好調らしいが……少なくともマルヴェリアにまで、「純白の抱擁」の香りが届いているとは考えにくい。


「なるほど、なるほど。それはそれは……主人が大変な失礼をしたようですね。さて……うん? どうしよっかな。あぁ〜……慣れないことをしていると、疲れるよね。だから、うん。召使いゴッコはやーめたっと。折角だし、さ。同類同士、楽しく話し合わない?」

「……話し合う、ですか? あなたと、何を?」

「同類じゃないなんて、()()()()はなしだよ、金緑石(デュアリティ)ナンバー3。……ふふふ。君の瞳、誰かを思い出すようで、本当に懐かしいなぁ。そう言や……金緑石(デュアリティ)ナンバー1は元気かな」

「そういうこと、ですか。……()()を懐かしがる時点で、あなたは彼と同じ時期に生まれたという事で、合っていますか?」

「ま、そんなところかな。それに……君のお父さんにも、ちょっとお世話になっているし。個人的には、助けてあげたいんだよね。……純潔の彗星も一緒に」

「……俺に父親はいません。いるとすれば、()()()()()()くらいなものです」

「もう、強情なんだから。そんなんだから、お父さんは寂しそうにしていたんだろうに」


 何故か知った風な口を叩きながら、2人分のコーヒーをしっかりと用意しつつ、ラウールの向かい側に腰を下ろす同類らしい執事もどき。そうしてまずはお手本とばかりに、コーヒーを一口含んだ後でどうぞと、示してくる。


「あっ、そう言えば……まだ、名乗ってなかったね。ごめんごめん。僕はルサンシー。お察しの通り、金緑石(デュアリティ)ナンバー1と同期で……中身はダイアモンドのカケラだよ。正式名称は金剛石(スパーナリィ)ナンバー1だけど……気軽にルサンシーって呼んでくれる? 僕もラウール君って呼ぶからさ」

「そんな事はどうでもいいです。……継父が何を寂しがっていた、ですって? それに、あなたがお世話になったとは、どういう事ですか?」

「あれ? テオさんから何も聞いてないの? あぁ〜、そうか。ラウール君がこの調子だから、話したくても話せなかったんじゃないかな」


 さも、お手上げと肩を竦めては……尚も嬉しそうにフフっと、吐息を漏らすルサンシー。何だか、妙な相手だが。こちら側に敵意はないと見ていいだろうか……と、ラウールは予断なくルサンシーの様子を窺う。だが、それ以上に彼はラウールが知り得ない、テオの軌跡を知っている模様。もちろん、そんな()()()をしている余裕もないはずなのだが。肝心のラインハルトは未だに姿を見せないし、ここは互いの退屈凌ぎ程度で話に付き合ってもいいかと、ラウールは思い始めていた。

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