ヒースフォート城のモルガナイト(1)
「ここがあの、有名なヒースフォート城……ですか。へぇ……これはまた、随分と立派なお城みたいですね?」
「そうなんですよ! あぁ……乙女の憧れ、ヒースフォート城! 一生に一度は訪れてみたいと、思っていたんですよね〜! モーリス様! 本当にありがとうございます!」
「い、いや……別に、これは僕がどうこうっていう訳では……」
先日のリーシャ真教の一件があり、功労賞を勝ち取ったモーリスに与えられたのは……いつぞやに消失した非番の休暇と、ヒースフォート城ツアーだった。そんな慰安旅行に、ラウールとソーニャもしっかり混ざってみたものの。……本格的に楽しんでいるのは、ソーニャだけらしい。何やら今回の旅行用に新調したというワンピースを着込みながら、同じように功労賞を勝ち取ったらしいモーリスの同僚にも馴染んでいるのが、彼ら兄弟としては少々居た堪れない。
(しかし……こうなってしまうと、史跡というのは見るも無残ですねぇ……)
元々は荒野に佇んでいたはずなのに、なぜかドップリと大通りに連なっているヒースフォート城。それはロンバルディア王国の歴史上でも有名な騎士、サイモン・ヒースフォート邸宅として、今なお残る旧王城だが……どうも現代は観光用にある程度修復されているとかで、人出の多さと気軽さからか、かつての重厚さは見る影もない。大元の形は留めているがややファンシーになりすぎていると、ラウールはかなり勝手な判断を下しては……独りでに苦々しい気分になっていた。しかも……。
(兄さん……そう言えば。さっきから俺達、皆さんから注目されている気がするんですけど……気のせいですか?)
(う、うん……。実は……その。かくかくしかじか……)
彼らの分まで愛想を振りまいているソーニャを尻目に、小声で作戦会議をするモーリスとラウール。そんなモーリスの言い訳によると、どうやらヴィクトワール様ご訪問の際に、彼女があろうことか中央署の受付で非常に不味いことを暴露したとかで……それ以来、モーリスは署内でも有名人として変な注目を集めることになってしまったらしい。しかも、そのモーリスに双子の弟がいるとあらば。……注目度は更に嵩増しされるというもので。彼らと繋がりを持ちたい者はもちろんのこと、何やら玉の輿の幻が見えるのか……今回の慰安旅行には完全に無関係とさえ思える、お連れ様の姿も目立つ。
そんな予想外の居心地の悪さに、付いて来るのではなかったと、目的地に着いて早々に後悔し始めるラウール。少しは非日常を味わってみてもいいかと、誘いに乗ってみたが。その軽はずみな非日常は、目の前の王城の成れの果てに相応しく……意外にも、ズシリと重たい物だったらしい。




