深きシトリンの憂い(3)
「全く、お祖父様も伯父様も冷たいんだから。どうして、いつもいつも僕に何も言わずに、勝手にイベントを始めちゃうんだろう?」
昔から、いつもそう。面白い事や楽しそうな事は「危ないから」と、過保護に置いてけぼりにされるばかり。
穏やかな昼下がりに、香り高い紅茶を嗜みながら……さも辛いよと、ため息をつくアレン。そんな彼の側には、今日は専属執事役のユアンがキリリと控えている。
「……仕方ございませんよ、マスター。今回は相手が相手です。ラインハルト様も、どんなに可愛い甥っ子が相手とは言え、大物を譲る気は無いのでしょう」
「ま、そうなるよね。……いいさ、別に。僕は伯父様と同じように、適性はないもの。もちろん、オーバーロードの元には興味があるけど。……僕は、さ。どちらかと言うと、ラウールさんが欲しいかな。本当にいいよね、彼。……あのお祖父様が僕にくれなかったものなんて、彼くらいなものじゃないかな」
アレンが親しげに「ラウールさん」と呼ぶ相手が、どれ程までの難敵かは、ユアンとてよくよく知り得ているつもりだ。表向きはブランネル公の孫で、宝石鑑定士。しかして、夜になれば一変……大泥棒としての、裏の顔も併せ持つ。
あまりに鮮やかな瞳の色変わりと二面性から、金緑石ナンバー3とも呼ばれるが。アレンの言う「彼」は紛れもなく、カケラ史上最高傑作と言われる宝石の完成品でもある。手駒に加えるにも曲者過ぎて、必要以上に手強い相手でしかない。
そんな彼……ラウールを「欲しい」と簡単に言ってのけては、嬉しそうに肩を揺らすマスターの様子に、ユアンはやれやれとため息を吐かずにはいられない。
(この調子じゃ、僕が自由になれるのはまだまだ先だろうな……)
ユアンとジャックのコントローラーはアレンが持っている。残り2人のダイヤモンドのコントローラーはラインハルトが未だに所持しているが、ユアンはラインハルトから護衛も兼ねて所有権ごと譲られた、秘蔵っ子だったのだ。
アレンに甘いのはブランネルだけではなく、彼の伯父でもあったラインハルトとて、同じこと。いや、彼らの続柄を伯父と甥っ子という「綺麗な関係」で片付けるのは、あまりに浅すぎる。
「……それで? 伯父様は可愛い息子にはどうせよと、言っていたのかな? まさか、今から感動の再会に加われなんて、言わないよね?」
「ご安心を。アレン様にまで、マルヴェリアへ来いとは申しませんよ。今回のブランネル公のご旅行はタイミングからしても、コランダムの来訪者絡みで強硬手段に出たとするのが正しい見方と思われます。あまりに急なご来訪ですので、不意打ちもいいところでしょう。ですので……落ち着いたら、お迎えを寄越すと申しておりました」
「あぁ、そうなんだ? それじゃぁ、僕はお前と一緒に、こっちでお仕事を片付けるとしようかな。それにしても……ラウールさんはいつも大胆な事をしてくれるから、目が離せないよね。確か、イノセントだったっけ? 竜神までも養女にしちゃうんだもの。僕もそんな家族が欲しくなっちゃった。うん。……だったら、ますます手に入れないとね。それこそ、彼の家族も丸ごと……根こそぎ」
父親役のアレキサンドライトに、母親役の変わり種・ホロウベゼル。夫婦の愛犬は、特注の頭脳を乗せたスフェーンのドーベルマン。そして……彼の養女だと言う、至宝のホワイトサファイアは大物来訪者。どれ1つとっても、輝きも重みも、そんじょそこらの大量生産の消耗品とは訳が違う。至宝だらけの家族を、何かと欲張りなアレンが欲しがるのも無理はない。
だからこそ、ユアンは憂鬱なのだ。ご主人様は、とっても欲張りなコレクター。1度手に入れたものを手放すなんて、薄情さはきっとないだろう。
「……まぁ、ラウールさんのお相手は伯父様にお任せするとして。で? あいつらの所在は掴めたんだろうね?」
「えぇ。最近は派手に出回るようになりましたからね。例のダークオーラが。しかし……」
「うん、分かってる。ラウールさんよりも厄介そうだものね、彼女。だったら……そうだね。こちらは奥の手を使おうかな。折角、お祖父様が留守番を残してくれたんだもの。……今回は騎士団長に一肌脱いでもらうよ」
そこまで呟いて「紅茶が冷めちゃった」と、事もなげにティーカップを執事に寄越すアレン。ご主人様の気まぐれも器用に読み取りつつ、恭しくカップを受け取っては……ユアンは予断なく新しい紅茶を丁寧に注ぐ。そうして、アレンの手元へ無事に戻ったティーカップからは、妖艶な香りをばら撒く紅茶がもうもうと熱々の湯気を上げているが。そんな湯気の向こう側に……相変わらずの貪欲な野心の輝きを見つけては。彼の双眸の鋭さに、やれやれとユアンは内心でやっぱりため息をついていた。




