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深きアメジストの悩み(12)

「とにかく、じゃ。ラウちゃん、余の方でマルヴェリア()()の手配をしちゃうから、長旅の準備だけしておいて頂戴。それに、余も一緒に行かねばならんようじゃなぁ」


 ブランネル大公名義であれば、いくら鉄壁のマルヴェリア王国と言えど、無碍にはできるまい。

 ラウールにはどこまでも胡散臭く見える白髭の爺様は、かつてのロンバルディア最高権力者であり、紛れもなく大陸最大レベルの超重要人物。しかも、ブランネルが一緒であれば、()()()()()()()もしっかりと稼げる。

 ラウールにしてみれば、非常に不服だが……実の息子(キーパーソン)に会いに行くという、自然かつ重要な目的を捏ち上げるのに、これ程までに強力な手札はないだろう。


【チチウエ、それはそうと……ラインハルトはマルヴェリアにイたのか?】


 一方で、実兄の消息を知らなかったらしいジェームズが、ブランネルにラインハルトの近況を尋ねるが。ブランネルが寄越した返答は、王子達の兄弟仲が不穏だった事を如実に知らしめるものだった。


「……そうじゃな。ラインハルトが出奔先にマルヴェリアを選ぶのは、ごくごく自然じゃろうて。マティウスとジェームズ、そしてラインハルトの母……ま、余の王妃じゃな。ナスターシャはマルヴェリアの王女じゃったからの。ラインハルトにしてみれば、マルヴェリアは第2の故郷でもあるじゃろ」


 愛する王妃の面影を思い出し、一時のノスタルジアに浸るブランネルであったが。……すぐさま、情けない思い出もしゃしゃり出てきたと見えて、すぐさま草臥れたため息を吐く。


「じゃが、ナスターシャが亡くなった時でさえ、本当にどうしようもない事で喧嘩するほど、マティウスとラインハルトは仲が悪かったからのぅ……。ラインハルトがロンバルディア……いや、マティウスの王宮を見限るのは、時間の問題でもあったじゃろうて」

【……タシか、どっちがヨウイしたハナをチュウオウにオくかで、オオゲンカになったっけ】

「そうそう、それじゃよ、それ。ジェームズ、よく覚えているじゃないの」

【トウゼンだ】


 姿形は似ても似つかないが、ブランネルとジェームズもまた、親子である。父親に褒められて、見た目はドーベルマンの息子はとても嬉しそうだが。しかし、彼らが懐かしげに咲かせている思い出話は、あまりに下らな過ぎる。


「……なんでしょうね。他ならぬ爺様の息子だから、非常識加減はある程度、仕方ないと割り切っていましたけど。ここまでくると、呆れるより他ありませんね」

「え、えぇ。流石にそれはちょっと、酷いと言うか……。お別れのお花くらい、仲良く供えればいいのに……」

「うん、僕もそう思う。そんなんじゃ、亡くなった王妃様が可哀想だよ……」

「しかし……その話からするに、ラインハルト様も相当に堪え性がないタイプってことか……」


 マルヴェリアの永世中立国の理念など、噂の王様は持ち合わせていない模様。しかも、親子の会話を聞く限り、マティウスとラインハルトの仲の悪さは、いわゆる「同族嫌悪」らしい。最近は船上パーティの影響で大人しくなったとは言え……横暴なマティウスと()()()()()()と言う現実は、ただの不安要素にしかならない。


「うふふ。とにかく、じゃ。来週から早速、マルヴェリア旅行に行くとするかの。大丈夫じゃって。余がいれば、大抵の事はなんとかなるじゃろうし。余はラウちゃんがボディガードをしてくれれば、問題もナッシングじゃ!」

「……俺には問題だらけにしか、思えないんですけど。言っておきますが、目的はイノセントを救出するのと、ヴァン様の()()を外すことです。向こう側にダイヤモンドが3人もいるらしい以上、油断はできません」

「あぁ、そうなる? そうなるの? ……ふむ。じゃったら、ヴィクトワールから狩人(ムーンストーン)も借りるとしようかの。そうすれば、ますます安心じゃろ?」

「安心どころか……俺、彼女達とは相性、最悪なんですけど。毎回、色々と小馬鹿にされるし……」


 本筋とは無関係かつ、微妙な懸念事項を抱え込んで、出かける前から疲れたようにラウールが肩を落とす。しかし、キャロルがすぐさま慰めればケロリと機嫌を直すのだから……やはり、ラウールはラウールで下らない。


「ここは素直に、白髭様のお力を借りるのがいいと思いますよ? ラウールさんのフォローとコーヒーは私がしっかりと保証致しますから。そう、ガッカリしないで。ね? ()()()

「……う、うん……。キャロルがそこまで言うのなら、仕方ありませんね。ククク……そう。君はしっかりと俺のお供をしてくれるのですね?」


 もちろんです……と、キャロルが気の利いた返事をすれば、ますます嬉しそうに不気味なデビルスマイルを浮かべるラウール。定番の不安要素をばら撒きながら、周囲が及び腰になっているのに気づけないのは、ただただ本人のみである。

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