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銀河のラピスラズリ(18)

「お兄ちゃん〜! 約束通り、本を返しに来たの!」

「あらあら、ルビアちゃん。いらっしゃいませ。ご用事があるのは……ラウール様に、ですよね。少しお待ちください。すぐに呼んできますから」


 人通りもまばらな裏露地の、更に開店しているのかどうかさえも怪しい、アンティークショップ。そんな相変わらずの開店休業中の店には到底、似つかわしくない女の子の声が響く。しかし……珍しい来客を迷惑どころか嬉しそうに迎えながら、一応の店主(ラウール)を呼ぶソーニャ。


「おや。お元気でしたか、ルビア嬢。わざわざ、本を返しにきてくれたんですね。それと……そちらはもしかして……?」

「うん! 私のお父様なの!」


 呼ばれてやってきたラウールが見やれば。ルビアの背後には、亜麻色の髪に彼女とお揃いの深いブルーの瞳をした紳士が立っている。そして……彼の腕には分厚い本が2冊、抱えられていた。


「はじめまして。私はラジル・ブライトと申しまして……ロンバルディア王立大学で星の研究しております。ラウール様には先日、娘がとてもお世話になったそうですね。この子にとって、きちんと話し相手になって頂いたことは、とても素敵な思い出になったようでして……本当にありがとうございました。それにしても……今後は私もラウール様を見習って、きちんとルビアのお話も聞かないといけないね」

「そうよ? お父様はいっつも忙しくしているんだもの。ルビア、寂しいじゃない」


 優しくルビアの頭を撫でながら、そんな事を嬉しそうに呟くブライト教授。そうされて頬を染めて父親を仰ぎ見るルビアの様子に、胸にじわりと今まで感じたことのない何かが滲む。不愉快ではないが、違和感でしかないその感覚をなぜか振り払いながら……彼らのご用件をお伺いする。


「しかし……ルビア嬢が借りられた本は1冊ですよ? どう見ても、1冊多いような……?」

「あぁ、そうですね。この子のお届け物はこちらの片方ですが……僭越ながら、同じものをお渡ししようと思いまして。……きっと、この子が一方的におしゃべりしただけだとは思うのですが。……ラウール様もご興味を示されていたような事を申していましたので。良ければ、どうぞ」


 そうして、少し恥ずかしそうに新品の『星の一生』を差し出すブライト教授。かつて披露して頂いた先生の思想のルーツでもあろう本を、少し読んでみたいと思っていた手前……予想外の贈り物が殊の外、嬉しい。


「ありがとうございます。折角だから、次は読んでみようと思っていましたから……とても嬉しいですよ」

「そうですか? 気に入っていただけたみたいで、私もとても嬉しいです。それはそうと……フィオレからこちらのお店が宝石を扱っていそうだと、聞いたので……ついでと言ってはなんですが。贈り物の相談にも乗っていただけないでしょうか?」

「もちろん、いいですよ。お探しのルースは何でしょう? ルビー? サファイア?」

「石榴石を探しています。もしあれば……ネックレスを1つ、見繕っていただけますか?」

「石榴石……ガーネットですね。……えぇと、少々お待ちください」


 予想外の贈り物に、想定外のお客様。そして……自分が触れたことのない、新しい感覚。ラピスラズリ(白銀の巨人)の一件以来、少しだけ気分が落ち込んでいたラウールにとって……運ばれてきた新鮮な感情は、どこか必要以上に塞いでいた気分に光を差し込むような、温かさを確かに持っていた。

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