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銀河のラピスラズリ(17)

 振り下ろされた拳を軽やかに回避すると同時に、手の甲から続く腕を上り疾走するグリード。しかし、大好きな屋根とは異なり、渡り慣れないその肌は滑らかなように見えて、まだ不完全なのか……彼が踏み締めるたびにピシリ、ピシリと軽やかな音を立てながら、剥がれ落ちていく。そして……そんな風に踏み荒らされて剥がれ落ちた肉片は、異様な表面張力を持った滴に姿を変じて、ありのままの石床を不規則な輝きで彩り始めた。


「……ッ⁉︎」


 そんな事にグリードが気を取られていると、空いている左手で強烈な張り手を這い上がるアリ(怪盗)にお見舞いする銀の巨人。その規格外の攻撃をまともに受けて、いよいよ心許ない橋の上に叩き落とされる。そうして彼の身が緩やかな弧を描いている間に、落とされてしまったシルクハットの方は運悪く湖の上に着水しており……ジワリジワリと、湖底に沈んでいくのが見えた。


「あぁ〜あぁ……結構、気に入っていたんですけどね……。新調するにも、少々値が張るんですよ? シルクハットというものは……」


 言葉も通じないはずの相手に仕方なしに、そんな事を言いつつ余裕の態度を演出してみるものの……起き上がる時に体の節々がピシリと小さく破裂音を響かせていたのに、グリードは内心焦っていた。いくら自分の硬度がある程度、高いとは言え。このままでは、冗談抜きでこちら側が砕かれてしまう。


(不味い事になりました……彼は未だに形を()()()()()()いるみたいですね……。初めの頃よりも大きく見えるのは……気のせいでもなさそうです)


 先ほどから弱点を探そうと、その体をくまなく観察してはいるが。刻々と変化する状態に、狙いを定めることができない。しかも……。


(水銀は比重が重いはず……なのに、あれは一体、何の冗談でしょうねぇ……?)


 見れば、橋の上に辛うじて着地したグリードを嘲笑うかのように、かの巨人が易々と湖面を歩いてこちらに迫ってくるのが見える。身から剥がれ落ちる肉片はそのまま沈んでいるというのに、目の前でまさに起こっている奇跡(超常現象)に思考が追いつかない。だが、そんな事にいよいよ焦燥を覚えているグリードを他所に、しばらくして歩みを進めていたはずの巨人の足がピタリと止まった。その様子に……奇跡の理屈が正体を表すと同時に、1つの糸口が見えてくる。


(もしかして……この場に巨人は2人も必要ない、という事でしょうか?)


 見れば……歩みを止めたのではなく、進みたくても進めないという風情の巨人の顔が、苦悶の表情で歪んでいる。不格好に足を宙に浮かせては……次の一歩がどうしても、踏み出せない様子だ。その根拠を確かめるべく……スラックスのポケットから方位磁石を取り出してみれば。磁石の針もまた、方向性を定めることもできずに無責任に回り続けていた。だとすれば……。


「ここに来て……()()()()に特化していた甲斐がありましたね。ククク……今回のお供にライトニング・クォーツを選んだのはやはり、正解でした……!」


 窮地からようやく余裕の息を吹き返し、右腰から先ほどの麻酔銃とは別の()()()()()()()を取り出す。そうして、やや小ぶりのショットガンを構えると同時に、左手の水晶の剣を巨人の頭上に投げつけ……眩い閃光を纏う弾丸で、一思いに打ち砕く。無惨にも粉々に打ち砕かれた結晶は、まるで粉雪のように舞い降りたかと思うと、巨人を取り囲むかのようにフワリフワリと漂い始めた。


「……さぁ、いい子はそろそろおネムの時間です。……大好きなママ(憎たらしい元凶)の元でゆっくりお休み!」


 最後のお休みの挨拶を一方的に宣言し、もう一発、今度は巨人目掛けて打ち込むグリード。その閃光は、かつて自分の大好きなママ(哀れな金緑石)がその身を捕えられた光の拘束……カケラ達の機能を停止するのに使われる、拘束銃・ジェムトフィア(宝石達の懸念)。ロンバルディアで秘密裏に開発されていた対カケラ用の武器であり……グリードが()()から受け継いだ、形見でもあった。


(少し可哀想な気もしますが……こちらもやられる訳にはいきませんから。……ご冥福をお祈りしますよ、()()()さん……)


 カケラとしての性質が薄いルト相手には、当然ながら拘束銃の効果も今ひとつ。しかし、この場合は強い電圧……極を変更できるほどの……をかけられれば十分。そのためにライトニング・クォーツを避雷針(導雷針)に見立て、その弾丸を雷鳴としてトドメの一撃を加え……見事に体内の電極を変更された巨人は、先ほどまでの様子とは真逆とでも言うかのように、ついぞ湖底に引きずり込まれていく。

 既に涙を流すこともない、ヒビだらけの瞳の怒りを余すことなく受けながら……ルトだった巨人の最後を見送ると、いよいよ背後の御神体・銀河のラピスラズリ(ママの角)に向き直るグリード。この場合は……ほんの少し、破片を失敬できれば十分だろう。

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