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ガス燈の煌めきはブルー・ジョン次第(31)

「この……クソッタレがぁッ!」

【ヒュガ、フッ!(ハール、ホノオを!)】

(フフフ、任せろ!)


 華やかな中央街・ミリュヴィラの地下で、こんなにも荒唐無稽な死闘が繰り広がれられているなんて、誰が想像できようか。

 怪しげなバイコーンの仮面男の浮世離れ加減も、大概だが。彼に対峙するは、光り輝く聖剣を咥えた珍妙な4本足の獣。互いに得物との相性もピッタリ相思相愛と、譲らずに激しい攻防を繰り広げては……刃同士がぶつかり合うたびに、激しい火花を散らす。


「全く……! なんなんだよ、この無茶な状況はッ⁉︎ おい、ユアン! お前も炎くらい、出せないのか⁉︎」

(無茶を言うなよ! 炎を吹くのはコランダムの特技なんだし!)

「チィっ‼︎」


 しかし、意外にも優勢なのはブラックダイヤモンドのペアではなく、聖剣と珍獣のペアらしい。得物のリーチは明らかに男に分があると見えて、対する聖剣は非常にご機嫌も麗しいのか……それこそ、無茶な分量の青い炎を撒き散らし、地下道を照らし尽くしていた。

 それでなくても、絶好調な聖剣(セイント・ハール)はカケラどころか、天空の来訪者(オリジン)である。硬度はともかく、性質量は100%だなんて生ぬるいレベルでもない。そもそも天空の来訪者(オリジン)遺児(カケラ)達とを、同じ基準で並べる事自体が馬鹿げているのだ。この場合は、かのレーヴァテイン(キャロル)よりも、ダモクレア(イノセント)の方が遥かに難敵だと判断するのが賢明だろう。


「……ユアン、大丈夫か?」

(うん、もう少し持ち堪えられそうだよ。それに……)

「……そう、だな。そろそろ、そっちの奥の手を使うか……」


 武器のぶつかり合いでは押し負けると判断したらしい。仮面の男……ジャックが武器の持ち方を変えた瞬間、心得ておりますとユアンがバリスティック・シールドに姿を変じて見せる。そして、片やジャックが左手で取り出したのは……。


「さぁ、さぁ! 聞き分けのない、化け物共! こいつで一発、大人しくなりな!」

【フュガフ……?】

(あれはまさか……拘束銃か?)


 しかし、見慣れているグリードの得物とは少々、趣が違う気がする。

 銃口でチリチリと耳障りな警告音を鳴らしているのは、紛れもなく同じだが。しかし……今まさに向けられた銃口を彩るのはいつもの眩い輝きではなく、どこか仄暗い、暗褐色の鈍い輝きだった。


「ったく、きっちりアディショナルまで装備しやがって。これだから、大公様(ホワイトムッシュ)の飼い猫はいけ好かねぇぜ。そんな物を持ち出されちゃ、こっちもヒヤヒヤモンのこいつを使わにゃならん」


 アディショナルがあれば、拘束銃は効力を発揮しない。ハールが装備しているヒョウのマスクも、ボンドが身につけている首輪も。身元を誤魔化す目的以上に、作戦に参加するカケラ達の狩りが「チームプレイ」であることを見越した、防御手段として持たされているものだ。

 しかし、ジャックの言葉を聞く限り、彼もまた拘束銃の「通常対応」の効力は知ってもいるのだろう。そして、手元の武器が「ヒヤヒヤ物」と称しているとなると……。


【ハール! ここはニげるぞ! サッサとモトのスガタにモドれ!】

(えっ? どうしてだ、ボンド。これからいいとこ……)

【そんなコトをイっているバアイじゃない!】


 いち早く、ボンドがジャックの武器の危険性を感知しては、逃走の一手を提案するが。ジャックの方はバリスティック・シールド(防弾盾)の後ろにしっかりと身を隠し、既に準備万端と……出だしが遅れたハールに狙いを定め、躊躇なく手元の拘束銃を発砲した。


「うぐッ……⁉︎ わ、私を舐めるな! このくらい……」

「無駄だよ、お嬢ちゃん。……こいつは普通の拘束銃と違う物でね。融和の彗星(ハーモナイズ)じゃなくて、究極の彗星(アルティメット)の鱗を原料にしている。要するに……標準装備のアディショナルじゃ防げないんだよ。なにせ、いつもの拘束銃も、アディショナルも。融和の彗星(ハーモナイズ)を研究対象としていた段階で出来上がったものだ。……新しく開発された、こいつへの耐性は持ち合わせていない」

【グルルルル……!】

「おっと! 唸っても無駄だぜ、ワンちゃん。フフフ……アッハハハッ! 今回は、俺達の勝ちみたいだな? 折角だ。()()()()()()()も、タップリとさせてもらおうか……?」


 そうして今度はボンドに狙いを定め、間髪入れずに追加の閃光を与えようとするジャックだったが……。


【ハールッ⁉︎ マってろ、イマ、タスけ……】

【グルルルルァッ! ワタシのコトはいい! ボンド、イけっ! とにかく、コイツのコトをグリードにツタえろ! そして……!】


 既のところで、本来の姿に戻ったハールがボンドを庇う。その自己犠牲の盾を前に、一方のボンドは彼女の意思と伝言をしかと受け取っては……悔しさを振り切るように、一目散に飼い主の元へと駆け出した。


「へぇ……こりゃまた、お見それしました。伊達に、天空の来訪者(オリジン)を騙っちゃいないねぇ、お嬢ちゃん」

【ダマれ……! この、アクマがッ! ワレこそは……】


 純潔の彗星、その名はイノセント。蒼き焔を以って、全てを清めるコランダムの来訪者(オリジン)

 元はと言えば、勝手に1人で飛び出したのがいけなかったのだ。そうして、自身の油断と身勝手で()()を巻き込むわけにはいかないと、ようよう守護者の矜持も思い出し。雄々しい白竜の姿で、更なる追加攻撃を何度も何度も、受け止める。それはまるで、ジャックの手元にあるバリスティック・シールドに対抗するが如く。希望の一手が逃げ切る間はしっかりと、盾としての役目を全うしようと……懸命に牙を食いしばっていた。

【おまけ・フローライトについて】

和名・蛍石、モース硬度は約4。

非常にカラフルな色味を持ち、作中にあるように加熱すると仄かに発光する幻想的な宝石であります。

一方で「フローライトって、何色?」と聞かれた時に、「こんな色」と想像できる人はあまりいないのではないかと。

紫と緑を混ぜた色味が多いように思いますが、青と黄色のバイカラーを持つものもあり、個体ごとに個性的なグラデーションを見せてくれます。

因みに、フローライトは古くから化学材料や光学材料としても重宝されていた歴史があり、特に純度の高い「蛍石レンズ」は、生産上の難点からメチャクチャ高額になったりします。

宝石として出回るフローライトよりも、レンズとして出回るフローライトの方が高価になりがちなのも、フローライトの面白い特徴かも知れません。


【参考作品】

『ガス燈』

『オペラ座の怪人』


ベースには上記の作品を参考にしていますが、物語の終盤ということもあり、後半はオリジナル色が強くなってしまいました。

相変わらず、計画倒れでゴメンなさい。

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