表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
68/823

銀河のラピスラズリ(16)

 左胸で確かに輝きながら……褐色の肌を蹂躙する、青い無数の鱗。そうしてルトがいよいよ咆哮を上げ始めると、その鱗が無慈悲に皮膚を貫き、心臓に根を下ろし……彼の体そのものを支配し始める。目の前で起こっている変質(クラック)に、苦々しい思いをしながら……彼の限界が近かったらしい事も理解するグリード。どうやら、最後の力を振り絞り、ルトはグリードを道連れにするつもりのようだ。


【……憎たらしい、怪盗……! そう言エば……おマエはラピス……ラズリが……ドンナ宝石か、シッテいるカ?】

「えぇ、よく存じてますよ。蛇の猛毒さえも御す程の解毒・浄化作用を持つとされ……“その身に銀河を宿す”という触れ込みで、太古より珍重されてきた聖石ですね。実際の主成分はラズライト……その他、アウィンやソーダライトなどを含みますが、表面にパイライト(黄鉄鉱)を纏ったものは、本当に……星の瞬きを連想させるようで、殊に美しい」


 グリードがさも本心とそんな事を嘯いている間にも、ルトの変貌は止まらない。彼は飾り石の中でも、体内に複数の核石を包括した試験体……元は宝石(ジェム)の完成品を目指していたが、適性が足りずに途中で放り出された捨て石だったのだろう。……おそらく、()()()()()()()姉の付随品(飾り石)を有効活用するために試行錯誤した結果だろうが。初めから性質量の大半を片割れが持っていっている時点で、それは果てしなく無謀な事だったのだ。だから……。


(用済みの彼は、この寺院に信者の頭数(付随品)にでもすればと……出荷された(捨てられた)のでしょうかね。なんて……なんて、愚かな事でしょう……!)


 そんな飲み込み切れない痛みが、いよいよ喉元に上がってくる頃には……言葉さえも失くした銀色の怪物が、ひび割れた青い瞳でこちらを睨んでいる。その額には頭を貫いて生えてきたかのように天を仰ぐ、紺碧色の角が1本高らかに聳えていて……それは湖の上に鎮座するあの祭壇と全く同じ、どこまでも深い夜空色をしていた。


【ヴァルルルルル……ッ!】

(とうとう、核石に飲み込まれてしまいましたか。……いずれ俺もこうなるんでしょうかね……)


 異常なまでに膨張した拳を振り回し、グリードに襲いかかる銀の怪物。その姿はまるで湖底に沈むあの巨人のミニチュアだと……()()()()()()()()()をしながら、幾度となく攻撃を躱すが……しかし、この状態では落ち着かせる(機能停止)にも、もう手遅れだろう。こうなってしまったらば、最後。残る手段は……物理的に粉砕するより、他にない。


「仕方ありません。……こればかりは使いたくありませんでしたが、少々こちらも本気を出さないといけなさそうですね……!」


 そう言いながら、マスクに嵌めていたライトニング・クォーツの片牙を、グローブを外した左手で握りしめるグリード。歪な刺に確かな痛みを感じながら、血も流せないままに水晶片を取り込むと……手に一振りの水晶の剣を携える。


(これが砕けるまでに、勝負を決めなければいけませんが……あの白銀相手では、数回が限界でしょうね。さて。彼の弱点(劈開点)はどこでしょう……?)


 ツノか、心臓か……あるいは……。しかし、理性(死への恐怖)さえ失った怪物相手に、あまり悠長なこともしていられない。つくづく今回は防御を捨ててきた事が仇になった気がするが……それでも。目の前の因果は、どこまでも自分のものでもあるだろう。だとすれば、何がなんでも引導は渡してやらねばならない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ