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ガス燈の煌めきはブルー・ジョン次第(22)

「パドゥール夫人が持っていたから、パドゥールリスト。まぁ、とっても分かりやすいネーミングだけど……」


 “パドゥールリスト”。それはジャンネ=アンネット・パドゥール夫人が隠し持っていた、カケラ売買の顧客リストのことであり、とある組織との繋がりもそれとなく疑わせる名簿だった。そして、彼女の名前自体は()()の大元・ブランローゼのリストにもしっかり記載があったため、自ずと“とある組織”の首領が誰なのかも浮かび上がってくる。


「でも……このリストは僕らカケラにしてみれば、悪夢の履歴でしかないかもね。パドゥールがやっていたのは、カケラの生産や売買だけじゃなく、核石(命の結晶)そのものの量産もしていたみたいだから」


 ブランローゼのリストの()()()()()であり、人形館のオーナーであったジェームズ・グラニエラ・ブランローゼに禁忌の技術をもたらしたのは他でもない。アダムズ・ワーズと名乗る、狂気の探求者である。彼は凶暴な思想の持ち主である以上に、ラウールと同じアレキサンドライトの宝石(ジェム)の完成品でもあった。きっと、自身も宝石(ジェム)の完成品である強みもあるのだろう。彼のカケラ研究の精度と深度は他者の追随を許さないし、独自の思想と造詣は凡人の理解が及ぶべき領域にない。

 しかし、そんな強力過ぎる()()()を得ていたにも関わらず、ブランローゼ側の稼業は当時の当主の死によって表面上は収束しており、現実側もグスタフ・グラニエラ・ブランローゼの失踪で一旦は終焉を迎えたとされている。だが……それが本当の終焉ではないことは、その場の誰もが知っている事もでもあった。


 グスタフが「失踪した」とされているのは、彼の遺体が見つからなかったことに起因する。クリムゾンの所業を考えれば、大火傷した足では国外に逃げる事はおろか、城内から脱出することさえ難しかったろう。しかし……グスタフは忽然と姿を消したのだ。ヴィクトワールも騎士団の精鋭(ロイスの一団)を動員しては、薔薇園はもちろん、周辺の大森林も隈なく探したらしいのだが。今に至るまで、グスタフは()()()()()も含めて見つかっていない。

 そのグスタフだが、悪いことに……()()の顧客リストを引き継ぐだけでは飽き足らず、ビジネスの継続にも余念がなかったらしい。ジャンネ=アンネット・パドゥール夫人とも()()()していた様子で、取引帳簿には彼女との間で相当数の命のやりとりがされていた事も克明に記されていた。もちろん、帳簿自体は厳重に保管され(隠され)ており、隠し部屋の中にあるダイヤル式3重扉の金庫の中だったが。……さもありなん。元の持ち主(ジェームズ)の情報提供があった以上、金庫破りも非常に容易い。そうして、ブランローゼの裏取引の痕跡は、ブランネル率いるインスペクター側に周知されることとなった。

 そのメンバーでもあるグリードにも、彼を巻き込む形で当然のように情報提供はあったし、お仕事でもある以上……常々、人の名前には疎い(興味がない)ラウールも珍しくリストにある名前は覚えている。だからこそ、偶然(と言うよりは、相手から擦り寄ってきた)に遭遇した、パドゥールの存在や魔の手にも気付けたのだが……。


「実は、そのリストについては僕にも情報共有があってね。僕の方は王子様とは違って、ブランネル公が依頼主じゃないんだけど。これで、ヴランヴェルトに試験用の模造宝石を納めていたりもするから。副学園長先生から別枠の依頼を受けているんだ」

「だから、いい加減、王子様はやめてください、王子様は。……まぁ、いいや。で、その副学園長……ミュレット先生は俺やサナと同じように、拘束銃の携帯を許されているハンターでもあります。なので、白髭よりも彼女の方がターゲットについては詳しいかも知れませんね」

「そ、そうだったんだ……。そっか、ヴァン様もヴランヴェルトでお仕事をしていたんだ……」


 とりあえずの懸念を晴らす情報に、何かと心配性なモーリスも少しばかり気が抜けてしまうが。一方で……彼らの会話が気になるらしいサムが少しだけ、困った表情を見せながらヴァンの背中を見つめている。それでも、何も言うべきではないと判断したのか……イノセントに振られた話にもしっかりと対応して、サムは健気に受像機が見せるモノクロの世界へ逆戻りしていった。

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