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ガス燈の煌めきはブルー・ジョン次第(21)

「そっか、今日は例のターゲット(ファントム)を引き渡しに行っていたのか。それにしても、珍しいな? ……()()()()まで待てない程に、危ない状態だったのか?」


 きっと、()()()()()()()()にならなった事が意外だったのだろう。モーリスが嫌味でもなく、純粋に驚いた様子を見せれば。状況的に仕方なかったのだと、ラウールは言い訳混じりで嘆息する。

 彼らが事前に「家宅捜索」を敢行したのは、キャロルが絨毯の違和感に気付いたからであり、アンソニーが「証拠隠滅」に走る前に、状況を確認したかったからだ。しかしアンソニーはあろうことか、()()()()()()()()炎に過剰反応するファントムに火を付け、熱暴走の引き金を引いてしまった。そうなれば、そのまま放っておくわけにもいかず……成り行き任せになったが、対象の宝石をそのまま()()()格好になったらしい。


「確かにその状態で満月の夜まで待つのは、危険だろうな。それで、早々に白髭様に預けてきたのか」

「えぇ、そんなところです。このまま手元に置いておいても、適切な扱いもできませんし。まぁ……毎度の如く、白髭に捕まりそうになりましたけど。今夜はキャロルのご馳走が待っていますからね。話もそこそこに切り上げてきました」


 イノセントとサム、そしてジェームズが仲良く並んでいる光景を横目に、ラウールがどことなく満足そうに答える。以前であれば「白髭(ブランネル)に捕まりそうになった」だけで、いかにも不機嫌で刺々しい態度を取っていたというのに。食後のコーヒー片手に、子供達を見つめる紫色の視線は紛れもなく……保護者のそれだった。


「……ラウールも僕が知らないうちに、色々と変わったよな」

「どうしたんですか、急に。……別に、俺は俺ですよ。特段、何も変わっちゃいません。それはそうと、兄さん。鑑識結果、どうでした? 何か分かりましたか?」


 どうやらラウールの変容は無自覚らしいが、モーリスの指摘はあまり好ましいものでもない様子。喋りたくない時は話をすり替えてくる強引さは相変わらずで、自分の興味を優先させる身勝手さも健在だが。それでも眉間のシワも随分浅いと、モーリスはこっそりほくそ笑む。


「……なんですか、兄さん。気色悪い顔をして。サッサと結果を教えてくれませんかね」

「悪かったな、気色悪くて。まぁ、いいか……。まずは、ジェームズが見つけた血痕の主だけど。その辺は予想もできているだろうけど、アリシー・アルキアさんのもので間違いなかったよ。だけど……色々と状況と噛み合わない部分があるんだ」


 そうして、モーリスが考えうる限りの「違和感」について説明すれば。大人しくフムフムと聞いていたかと思うと……今度はモーリスのそれとは比べ物にならない程に、気色の悪い笑顔を浮かべるラウール。そのあまりに邪悪な表情に、モーリスは器用に椅子の上で及び腰になっていた。


「……クククク……! やはり、そうでしたか。殺人現場は別邸じゃありません。元々は血痕付きの絨毯が敷かれていた、本宅の方です」

「あの絨毯がどうして、本宅の方に敷かれていたって分かるんだ?」

「その理由がそもそも、昨晩のフライングに繋がるのですけど……キャロルがお仕事で本宅に出向いた際に、床の不自然な日焼け跡に気づきましてね。で、その絨毯が元々敷かれていた床には、いかにもな隠し扉がありました」


 ジェームズの耳を信じるなら、扉の先からは「車の音」がしたそうだ。更に()()()()()()アンソニーが姿を現したことを考えても……扉の先には相当の広さないし、距離がある地下道が存在しているのだろう。そして、その地下道こそが、今回のお題でもある“パドゥールリスト”にアルキア家が名を連ねていた理由にも繋がると、ラウールは続ける。


「あぁ、新婚旅行中に巻き込まれたっていう、あれか……」

「そう、それですよ、それ。……本当に、ツイてないったらありません」


 忌々しげにラウールが鼻を鳴らしつつ、コーヒーを飲み干せば。子供達におやつを配るついでに、キャロルがコーヒーのお代わりはいかがと、尋ねてくる。そんな奥様の有難い配慮に、素直に応じてはマグカップを預けるラウールだったが。……今度はあのラウールが器用に笑っているではないか。


「ラウール、その……」

「はい? どうしましたか、兄さん」

「もしかして、お前……どこか具合が悪かったりするのか?」

「……すみません、兄さん。俺のどの辺をどうご覧になって、具合が悪いと判断したのです?」

「そ、それじゃぁ……!」


 そうして、いつかのようにラウールの頬を思いっきり引っ張り、挙げ句の果てにシャツのボタンを外しては彼の核石を確認し始めるモーリス。しかし……どこをどう頑張っても、目の前で頬を摩りながら不服そうにしているのは、やっぱりモーリスのよく知っている弟でしかなかった。


「アッハハハハ! なるほど、なるほど。確かに、ラウール君の笑顔は珍しいもんね。モーリスさんが疑うのも、無理はないよ」

「……それ、そんなに大笑いすることですか、ヴァン様。全く……俺の笑顔はそんなに不自然なんですかね?」


 いきなり何をするんですか……と、不服そうにいそいそとシャツのボタンを閉めつつ、不貞腐れるラウール。そんなコーヒー待ち(不機嫌)な彼の代わりに、サムの保護者でもあるヴァンが“パドゥールリスト”のあらましについて、説明し始めたが。……モーリスとしてはどうして同類なだけの隣人が、そこまでの状況を把握しているのかが腑に落ちない。ご近所さん同士で一緒にキャンプに出かけたとも聞かされていたが。ラウールとヴァンの妙な距離の近さに……弟の最大の理解者でもある兄は、変な胸騒ぎを覚えていた。

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