表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
677/823

ガス燈の煌めきはブルー・ジョン次第(20)

 「CLOSE」のプレートが掛かっているアンティークショップのドアをコンコンと叩けば。モーリスを誰かと勘違いしたらしいイノセントが、勢いよく出迎えてくれる。しかし、知った顔ではあるものの、お目当ての相手ではないと分かった瞬間に顔を曇らせるのだから……モーリスはただただ、苦笑いするしかない。


「……なんだ、モーリスか。ラウールなら、まだ帰ってきてないぞ」

「おや、そうだったの。う〜ん……どうしようかな。色々と話したいことがあったから、寄ったんだけど……。しかも、クレームブリュレも買ってきちゃったし……」

「ク、クレームブリュレ⁉︎ どうして、それを先に言わないんだ! クフフフ……今夜のハール君鑑賞は、とっても豪華になりそうなのだ〜」


 差し入れの存在に気づくや否や、大急ぎで階段を駆け上がるイノセント。そうして、置き去りにされる格好になったモーリスも、かつての我が家に足を踏み入れるが。相変わらず、古めかしい空気は変わらないと、夕暮れ時のノスタルジーも相まってしんみりした気分になってしまう。


【モーリスじゃないか。……こんなジカンに、どうしたんだ?】

「うん、この間の鑑識結果が出たから、伝えようと思って。それに……色々と気になることもあってね。お邪魔して大丈夫そうかな?」

【タブン、ダイジョウブ。ただ……】

「ただ?」

メクラディ(水曜日)はちょっとした()()()()があるヒでな。デビルハンター・ハールクンのアニメをおトナリさんとミることになっている】


 続くジェームズの説明によると。メクラディは娘もどき(イノセント)が夢中になっているトーキーアニメ「ズバッとお仕置き!デビルハンター・ハール君」の放映時間に合わせて、同類のご近所さんでもあるアメトリンのカケラ・ヴァンと、スペクトロライトのカケラ・サムとがお土産持参で遊びに来るのだという。そして……。


【メクラディはごチソウのヒでもあるんだ。ほら、ラウールのコノみに合わせていたら、シッソなショクジしかデてこないだろ? だから、イノセントがワガママをイいダしてな。キャロルがメクラディには、ゴウカなショクジをツクってくれるコトになったんだ。で、キャロルはキッチンでオオイソガし、というワケだ】

「そうだったんだ。あぁ……だとすると、今日の長居は迷惑かな。ラウールも帰ってきていないみたいだし……」


 そうしてお土産の袋だけを託そうとしてくるモーリスを、ジェームズがイヤイヤと首を振っては、引き止める。それでなくても、ラウールもモーリスが持ってくるであろう情報を待っていたことを、賢い番犬はよく知っている。ここで土産だけ受け取って帰したら、お小言はないにしても、嫌味を言われるかもしれない。


【ベツにメイワクじゃないだろうし、ラウールもそろそろカエってくるとオモう。スコし、マっていたらどうだ? それに……ソーニャをこっちにヨぶのも、いいとオモうが】

「あぁ、それもそうか。……だったら、うん。電話、借りようかな。ソーニャもいれば、キャロルちゃんのお手伝いもしてもらえるかも知れないし」

【テツダいはいらないとオモう。……あれで、ラウールはキャロルにはエンリョしててな。カジをゼンブオしツけるの、ヨくないとオモっている。……だからおテツダい、トりアげないホウがいい」

「そ、そうなんだ……。あのラウールが、誰かに遠慮するなんて。それ、間違いじゃないよね?」

【……ラウール、キャロルにだけはキラわれたくない。だから、エンリョするし、キヅカいもそれなりにできるっぽい。……アイカわらず、エガオはブキミだけどな】


 とにかく、2階に上がれよ……と、テテテッと4本足で軽やかに階段を駆け上がるジェームズを見送っては、カウンター内の受話器を取るモーリスだったが。考えれば……この家に2人暮らしだった時から炊事に洗濯、掃除に至るまで、家事はラウールがこなしていたかもと、今更になって反省してしまう。それに、今回ばかりはラウールを見習わなければならないと気付いて、モーリスは勝手な提案をしたことを恥じていた。


(そう、だよね……。仕事をしているからって、家事を押し付けていい訳じゃないんだよなぁ……。今度、僕もトイレ掃除くらいはしてみようかな……)


 さも当然のように、ソーニャにキャロルの手伝いをさせればいいだなんて、言ってみたけれど。それは、タダの思い上がりじゃないか。

 確かにソーニャにやってもらった方が何かと効率的だし、表向きは元・王宮付きのメイドだけあって、彼女は家事一般の所作もパーフェクト。下手に手を出せば、却って邪魔になってしまうかも知れない。それでも……。


(うん、こういうのは……やってみるのが、大事なんだよな。とにかく……)


 明日から、家の事にももうちょっと目を向けようかな。

 そうしてこちらはこちらで、家族を呼び寄せようと……モーリスはやっぱり懐かしい電話のダイヤルを、ジーコジーコと回すのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ