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ガス燈の煌めきはブルー・ジョン次第(15)

 愛する家族の窮地を咄嗟の機転でそれとなく、救ってはみたものの。肝心の「ガサ入れ」結果が非常に思わしくない。遅々として進んでいない検証結果にふぅむ、と唸りつつ、庭先の光景を見つめてみれば。……そこには、()()()()()を諦めたらしい飲んだくれ達が、仲良く柔らかな芝の上で仮眠(惰眠)取り(貪り)始めていた。


【ここまでクると、ホントウに()()()()()()だな……】

「そうですね。これだから、()()()()()さんの苦労が報われないのでしょうに。と……それはさておき、この後はどうしましょうかね。君達の話ですと、絨毯の下には相当の秘密があるようですし……そちらを調べるのも、一興ですが」

「えぇ。そちらも重要だとは思いますが、ですけど……」

「そうですね。それよりも優先するべき確認事項がありますね。……ハール、()()の発信源は分かりますか?」

「ちょっと、待ってろ。……うん、きっと上の方だ。()()はもう止めてと、泣いているみたいだぞ」


 グリードやクリムゾンには()はただ、ポーラに何かを訴えるために歌っているのだと思っていたが。ハールの耳に届くそれはまた、別の意味を帯びているらしい。しかも、ハールはファントムを「彼女」と言っている。だとすると……。


「……なるほど。通称・ファントムはかつて女性だったのですね。であれば、調査依頼の内容とも一致してきますか。……さてさて。では、()()()()の続きは屋根上でしましょうかね。……ハール、こっちへ」

「そこまで言うのなら、仕方ないな。……抱っこさせてやってもいいぞ?」


 大好きな屋根上への移動にグリードが抱っこを申し出れば、これまた生意気な様子でハールが応じて見せる。そんな()()()()をやれやれと抱き上げたところで、隣からクリムゾンが嬉しそうに笑い声を漏らしているが。グリードとしては、何か誤解されているようで、この境遇は少しばかり不服である。


「はいはい、到着しましたよ、プリンセス。この先は自分で歩いて頂けます?」

「……歌声はあっちだぞ。こんな足場の悪い所を、可憐な私に歩けと言うのか?」

「はぁぁぁ……。あなたのどこをどう見れば、可憐なのです。この場ではあなたが一番、()()()()でしょうに」

【ボンドもドウカン。……ハール、このナカでトびヌけて、()()()()


 ボンドにまで呆れ気味で言われたものだから、意地でも離してやるかとグリードの首元を握りしめるハール。一方のグリードはそうされて、鼻を鳴らしながらハールを抱き直しつつ。仕方なしに、そのまま彼女の示す方へ歩き出す。

 足場の悪い場所と、娘もどきは言っていたが。しかし、ミリュヴィラ一等地の豪邸は屋根材も違うものらしい。足元の屋根を覆い尽くしているのは粘土製の平板瓦ではあるが、まず色味がいい。通常は赤茶色が多いはずの平板瓦にあって、特注品に違いない。くすんだモスグレーと落ち着いたダークグリーンのコントラストは、やや鮮やかになりがちな色彩をシックにまとめ上げている。その上、材質も相当に上質なのだろう。滑らかな土肌は雨を吸って、少しばかり草臥れてはいるが。耐久性が売りの粘土瓦の性能を遺憾無く発揮していると見えて、激しい風化も見られない。


「……このお屋敷、随所まで凝っていますね。しかも、年代もそれなりに古いと見える。……全く。これだから、お金持ちはいけない。こんな所に贅を尽くすために、()()悪事に手を染めることもないでしょうに」

「“パドゥールリスト”に、アルキア様のお名前があったそうですけれど……。やっぱり、()()()()()なのですね」


 Money is not colored……金に色は付いていないと言うけれど。美しい豪邸を彩る全てが、汚い手法(宝石人形ビジネス)の稼ぎで賄われていたのなら、これ程までに気に食わぬこともない。


「この部屋みたいだぞ……って、誰かいるな。あぁ、またあいつか……」

「……ここ、屋根裏ですかね? おや?」


 何気なく蔓延る贅沢に、ますます面白くないとグリードが不愉快を募らせていると……彼の腕の中からハールが探り当てたのは、一番端の屋根裏部屋だった。そして、彼女が「またあいつ」と吐き捨てているのは、アンソニーみたいだが……そこにはもう1人、グリードとクリムゾンとしては顔見知りの奥様の姿もある。一味がめいめい、窓の外から盗み聞きをするに……どうやら、揉め事のようだ。


(あらあら……ミセス・グレイソンったら、大胆ですわね。ふふ。そうですわ。旦那様が気に入らないのなら、叩き出してしまえばいいのです)

(……おぉ、怖い怖い。俺も気をつける事にしましょうか……)


 どうも、彼らが言い争っているのは「どちらが嘘つきか」ということらしい。そうして、儚く輝くブルー・ジョン、通称・ファントムが「本当に泣くかどうか」で青と黄色……ならぬ、白黒ハッキリつける事にした模様。泥棒一家が耳を欹てているとも知らず、アンソニーがいよいよポケットからオイルライターを取り出し、カチンとガス燈に火を灯し始めた。

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