銀河のラピスラズリ(15)
「……そう言えば、あなたはこれが何なのか……ご存知ですか?」
「もちろん存じてますよ。これはリーシャ真教・創始者を生み出した聖なる母石……いいえ、違いますね。これは呪いの元凶とも言うべき、悪魔の使者……。あなたも姉も、そして私も……! こんな奴らが存在したせいで苦労しているのでは、ないでしょうか……?」
湖底のそれを目で示しながら問うグリードに、やや興奮気味でそんな返答を寄越すルト。彼の答えが少々気に食わないものの、間違いでもないものだから否定もできないのが、歯痒い。そんな腹の中に溜まる不愉快を、努めて押し戻しながら……同類にすらもなれなかったらしい彼に、持論を展開してみる。
「そうかも知れませんね。こんな物がある日、空から降ってきたせいで……人間はとある勘違いをし始めました。食事もせず、眠りもせず……果てなく働き続けるこの力を取り込みさえできれば、不老不死で永遠に生きていられる、永遠に変わらぬままでいられる。……しかし、人間はとても弱く、臆病で……自分が可愛いどうしようもない生き物でもあります。だから……まずは自分達の身を使う前に、名も無い試験体を使うことで適合性を確かめることにしました。その結果……彼らのカケラをただ取り込むだけでは、力を得ることができないことが……とある貴族の道楽ついでに判明した、と」
「……そして、リーシャ真教・創始者はまさにその先駆け……私達の屈辱的なこの苦痛を生み出した、張本人だった! 頼みもしないのに、そんな境遇に生み出されたというだけで……核石を埋め込まれているというだけで、物扱いされるなんてことがあってたまるか! ……私達も確かに、生きているはずなのに……! それなのに、彼女はその境遇を否定するどころか、あろう事か従順に受け入れた挙句に、ラピスラズリの遺児達に同じ境遇を押し付けたんだ! それからずっと……ずっと!」
青い瞳から大粒の涙を流し、そんな事をいよいよ虚に叫ぶルト。彼の咆哮に少し同情しながら……さもやり切れないとでもいうように、グリードは彼の言葉を引き取る。
「……だから、あなたは教団ごとお姉さんを自分から切り離したいのですね。……お話を聞いている限り、あなたのお姉さんもまた……かの創始者と同じ考えを持つ従順な信者でしかない。多分、さっきお会いしたモラム様は、ここでカケラに最期を迎えさせることで、奇跡を再現させるついでに……核石を量産していたのでしょう。カケラは死際に、その身と核石を砕き……眩い光と一緒に、新たな核石を生み出す性質があります。それを秘密裏に捌くと同時に、定期的にあなた達のようなカケラを入荷し……この教団そのものを維持してきた。だから……ラピスラズリの遺児は確実に女性である必要があり、男性のあなたには商品価値すらなかった。その結果……通常の規則が逆転したのでしょう……?」
敢えて皮肉まじりでそんな事を言ってやると、涙ながらに鬼のような形相でグリードを睨みつけるルト。そうして、いよいよ何かの糸が切れたように口元だけを歪めて笑い始めると……袈裟を脱ぎ捨て、上半身をあらわにし始める。一方で、どこか不気味な彼の様子に、何かを覚悟すると……改めて彼に向き直るグリードだったが。どうやら……ルトはただの飾り石でもなかったようだ。




