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ガス燈の煌めきはブルー・ジョン次第(4)

「……ところで、ラウール。本当に私の出番もあるんだろうな?」


 2人でこっそりランデヴーに出かけた怪盗カップルを出迎えたのは、頬をパンパンに膨らませた娘もどき……こと、コランダムの来訪者でもある、原初の白竜・イノセント。彼女のご立腹の理由は単純に、「楽しそうなお遊び」に連れて行ってもらえなかったことが原因だが、根っこでは父親もどき(ラウール)に裏切られたと勘違いしているのだ。どうやら、出番を今か今かと待ち望む原初の彗星(オリジン)にしてみれば、お留守番は裏切り行為にも等しいという理論になるらしい。


「もちろんですよ、イノセント。あなたは俺達の()()()なのです。主役は遅れて登場するものだと、よく言うでしょ?」

「……ジェームズ。これ、どう思う? 本当かな?」

【シュヤクがオクれてトウジョウするのは、ツネだ。ここぞというトキにバシッとトウジョウしてこそ、スゴウデのハンターというヤツだな】

「そ、そうか……?」


 上手いことラウールに言いくるめられ、空気を読んだジェームズに宥めすかされ。ようやくほっぺたを元に戻すイノセントではあったが……やっぱり、退屈なのが不満らしい。尚もジットリと目を細めては、まだまだご機嫌斜めだとアピールしてくる。


「イノセント、明日は私のお仕事にお付き合いいただけませんか?」

「お仕事?」

「えぇ。来訪者さん絡みの調査なので、イノセントがついてきてくれた方が、私も心強いです」


 イノセントはカケラである以前に、大元とも言える天空の来訪者そのものである。そんな原初の彗星(オリジン)同士であれば、互いの空気感は何となく肌で感じることができるものらしい。今回は()()の調査も仕事内容に含まれているため、ラウールが言ってのけた「奥の手」はあながち嘘でもない。


「そうか? クフフフ……! だったら、私は()()()()()と出かけることにする。悪い奴らにズバッとお仕置き、するのだ〜!」

「……ごめんなさい、イノセント。明日のお出かけは()()なのです。例のブルー・ジョンの鑑別依頼がヴランヴェルトに来ていたみたいで。そちらのお仕事で出かけるのですけど……」

「なんだ、そういう事か……。まぁ、いいか。そのブルー・ジョンとやらが、今回のターゲットなのだろう?」


 その通り。ラウールがご名答とばかりに、イノセントの物分かりの良さをよしよしと褒めれば。中身は超高齢の竜神様も、見た目に違わず「フフン」と満足そうに胸を張る。……何れにしても、お子様は素直なのがよろしいことで。


【それで、ジェームズはラウールとイッショでいいか?】

「そうなりますね。俺達は()()()()()として、捜査をさせてもらいましょう」

「捜査……? ラウール! それはどんな仕事なのだ⁉︎」


 これはもしかして、余計なことを言ってしまったのだろうか? 目を輝かせては、意外にも「捜査」の言葉に食いつくイノセントに、仕方なしに概要を説明するが。ラウールとしては、嫌な予感しかしない。


「……兄さんのフリをして、アリシー・アルキアさんの身辺を洗い出しに行くのです。……例のブルー・ジョン、“ファントム”の元の持ち主でしてね。ご不運にも強盗に襲われてお亡くなりになったことになっていますが……」

【そのヨウスだと、ハンニンもワかっていそうだな?】

「えぇ。犯人はおそらく、アンソニー・グレイソン様だと思いますけどね。ただ、証拠もなければ、犯人も既に()()()()()()()()いるものですから。証拠を集めて、叩きつけてやらねばなりません」

「犯人がでっち上げられている……?」


 ラウールがモーリス経由で聞いたところによると。被害者のアリシーは、ミリュヴィラの一等地に実家の屋敷と仕事用の別邸とをそれぞれ構えており、今回の()()()()はアリシーがオペラ公演期間に使っていた別邸の方になるそうだ。


「ですけど、場所が場所ですからね。ミリュヴィラでは、素敵で善良な市民(いけ好かない貴族)の皆様の安心を確保するのが最優先で、事件の解決はどんな手を使ってでも、強引に達成されるのですよ」


 そんな一等地に配属されている警察官も、それはそれは()()()()()()が揃っているらしい。自分の手柄を作り上げるために、たまたま運悪く近くにいたオペラ関係者を誤認逮捕した挙句に、既に刑務所まで送還済みだというから恐れ入る。


「……全く、これだから兄さんの努力も報われないんですよねぇ。ロンバルディア警察は8割方腐敗されているから、よろしくない」

【ロンバルディアケイサツ、キホンテキにキゾクとケンリョクにヨワい。ジェームズもムカシはよく、ナニもなくてもシンペンケイゴをカってデるヤツらがオオすぎて、オいハラうのにクロウした】


 かつては天下の白薔薇貴族だったジェームズが、やれやれと呆れたように首を振る。しかし、イノセントとしては、そんなことはどうでもいい。鑑別に付いていくか、捜査に付いていくか。イノセントにしてみれば、どちらかを選ぶのは、究極の選択に等しい。何せ、退屈を紛らわせてくれそうな「お出かけ」のお題が一気に2つも、湧いて出てきたのである。これを選べというのは、あまりに酷だ。


「うぐぐ……! ラ、ラウール! 明日、ラウールはお留守番できないのか⁉︎」

「……どうして、そうなるのですかね? 兄さんが捻じ込んでくれた予定ですから、明日以外の日取りはあり得ません」

「じゃ、じゃぁ、キャロル! 鑑別は明後日にできないのか?」

「それも無理です……。アンソニー様から日程のご指定がありますから……」

「ぐ、ぐぬぅ……!」

「でしたら、イノセント。やっぱり、私と一緒に来ませんか? お仕事帰りに、美味しいケーキを食べて帰りましょう?」

「うぐ……! 捜査にも参加してみたいが……。そ、そういうことなら、仕方ないな。明日はキャロルと行くことにする」


 結局、ケーキの誘惑にパクりと食いついて。キャロルが子守を買って出てくれたことに、安堵の息を漏らすラウールとジェームズ。どんな時でも、お子様は素直なのがとってもよろしいようで。

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