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ガス燈の煌めきはブルー・ジョン次第(1)

“蛍の輝きに誘われて、泥棒めは欲望を燃やしつつ。

焦がれてやまない、ブルー・ジョンを忘れられずにおります。

つきましては満月の夜、偉大なる作曲家のコレクションをいただきに上がります。

当日は洒落た灯火の下、お会いできる日を楽しみにしております。

                             グリード”


 被害者候補が持ち込んだ怪盗紳士の予告状に、ロンバルディア中央署は朝から大忙し。そんな元凶を持ち込んだのは、売れに売れている作曲家・アンソニー・グレイソン。生まれはスコルティアの彼は、オペラが盛んなロンバルディアで才能を開花せた時代の寵児であり、それまでの()()()()の反動か、宝石に目がない蒐集家としても知られていた。

 そんな飛ぶ鳥落とす勢いで裕福になったコレクターから、かの怪盗紳士は希少な宝石を奪おうとしているらしい。その宝石の名は、Bleu()-Jaune(黄色)……ブルー・ジョン。世にもユニークで希少な、フローライトの一種である。

 生粋のスコルティア紳士に相応しく、ジョン・ブルームに準えた名前なのかと思えば、純粋に青と黄色が混ざった宝石という意味らしいのが、やや間抜けにも思えるが。いずれにしても、アンソニーの自慢混じりの解説によれば……グリードが狙っているのはおそらく、アンティークのガス燈に鎮座する大粒の宝石だろうということだった。


「お、落ち着いてください、アンソニー様。とにかく、しばらくはお屋敷の警護に……」

「い、いや! それはダメなんだ! 今、私の妻が屋敷で療養中でね。それでなくても、彼女は臆病だから。警察の皆様には屋敷に出入りせずにただ、グリードを捕まえて欲しいだけなんだ!」

「しかし……ご存知かも知れませんが、グリードは狙った獲物を取り逃がしたことのない厄介者でして。ただ漠然と周囲を警護するだけでは、捕まえることはおろか、あなた様の宝石を守ることもできないでしょう。ここは……」

「だから! それはダメだと言っているだろう! とにかく! 君達はこのふざけたコソ泥を捕まえてくれれば、よろしい! ……ったく。噂には聞いていたが、ロンバルディア警察は本当に頼りにならないみたいだな……。スコルティアの警察だったら、もうとっくに捕まえられているだろうに……」


 ホルムズの提案を激しい様子で却下しては、どこか叩きつけるように予告状を机上に寄越すアンソニー。一方で、彼のあまりに()()()()()()を目の当たりにして、モーリスは弟のターゲットにはこれまた、随分と後ろ暗い事情がありそうだと気を揉んでしまう。


(こいつは何か、隠してそうだな。そして、あぁ。多分、これはソーニャが言っていた調()()の一環かも……。だとすると……)


 アンソニーが所有しているブルー・ジョンはそちら(カケラ)絡みの逸品なのだろう。仕事となれば()()()予告状と一緒に、()()()を出さずにはいられない弟の悪癖も捨て置けないが。グリードのターゲットになる時点で、目の前の依頼主も相当の悪癖(悪行の経歴)の持ち主だろうと推測しては、既に雑多な意味で頭が痛い。そうして、そんなことにも気づいてしまったモーリスは……爽やかな初秋の風さえも湿らせる勢いで、ため息を吐いてしまうのだった。

【作者の言い訳】


作中の「ジョン・ブルーム」ですが、本来は「ジョン・ブル」、ステレオタイプの英国紳士を指す言葉をもじっております。

作者のご都合主義全開のこちらの世界では、言われずとも「スコルティア」はスコットランド、延いてはイギリスをモデルにしておりまして。

経済活動の時代背景は、産業革命時代辺りを想定しています。

電話交換手や蒸気自動車が登場したりするのも、1900年代のレトロな空気感を出すためなのです。

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