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ウレキサイトに浮かぶ赤鷺(18)

 目の前の巨人は虚な存在を埋めようと、手当たり次第に拳を振り回す。その当てずっぽうな()()()()さに、果たして、今の今まで彼は()()()()()に「放し飼い」にされていたのだろうかと、沸々とした疑問を抱きながら。叩き潰されては敵わないと、目の前の相手に集中するラウール。しかし、その前に……。


「すみません、アリソン大佐! このままだと、他の皆さんにも被害が及びます。ですから……」

「あい分かった。私がいても役に立てそうにないし、彼女らの保護を優先させていただこう」

「えぇ、そうして下さい」


 意外と隙がなく、至近距離での攻撃をしあぐねている間に、被害者達を叩き潰されては都合が悪い。しかも、アリソンを庇いながらの攻撃を許してくれる程、相手は間抜けでもなさそうだ。そうして、本人も自覚しているように足手纏いになり得るアリソンを退避させると、心置きなく鬼さんこちらと彼の視界にわざわざ踏み込む。


「ほらほら、()はこちらですよ? もっとこっちに手を伸ばしてみたら、如何です?」


 やや筋肉質で筋張っているかもしれないが、胸には大粒で()()()()()が埋まっていますよ……と、挑発するように緑色の熱視線を送ってみる。そうされて、ようやくラウールに狙いを定めたのだろう。乳白色の巨人が獰猛な唸り声を上げながら、ラウール目掛けて腕を振り下ろしてきた。


「……おっと! 危ない、危ない。なかなかのパワーですね、これは。折角の真っ赤な床に大穴を拵えるなんて。ご主人様が戻ってこられたなら、怒られてしまいますよ?」


 ま、そんな事はどうでもいいか……なんて飄々と呟きながら、拳を躱したついでに彼の肩へと駆け上がる。もちろん、体を踏みつけられている方も無遠慮な蹂躙を許す程に鈍感ではないようだが、いつかの銀色巨人(ラピスラズリ)よりは()()()()()()()()分、やりやすい。何せ……。


(ルトさんは絶え間なく膨張し続けていましたし、大きさも比較にならないですし。……この程度なら、楽勝ですね)


 自分をはたき落とそうとする張り手の応酬を掻い潜りながら、ここぞと彼の首元に狙いを定める。この至近距離であれば、いくら選り好みの激しい拘束銃でも狙いを外しようもないらしい。ラウールが引き金を引いた瞬間、拘束銃が容赦なく強烈な閃光の鎖を吐き出し、グイグイと巨人の首を締め上げ始める。


「ふぅ……こんなものですか? あっ、そうだ。……そろそろ、これは外しても構わないでしょうかね?」


 言葉にならない慟哭を上げながら、真っ赤な床にドウと倒れ込む弱々しい小ぶりな巨人。彼も被害者側なのだろうと思いあぐねては、ラウールもバツが悪い気分にはなる。しかし、こちらもやられる訳にはいかないのだと心の中で弁明しつつ、キュポンと左耳から盗聴器兼・発信機を取り出す。


(この距離だと、キャロル側の会話は聞こえませんし……ここは大人しく待ちましょうか。あぁ、それにしても……)


 やっぱり、こうなるのですね。

 知らぬ存ぜぬ、記憶にございません……と決め込んでみたところで、厄介事の方はラウールが大好きで仕方ないらしい。行く先々で、望みもしないお仲間との交流をセッティングされても、迷惑甚だしいのだが。Jackdaw always perches by jackdaw……カラスはいつもカラスの隣に留まる、即ち「類は友を呼ぶ」とはよく言ったもので。しかも賢いカラスではなく、下心有り余る赤鷺さんにお隣空いてます? ……なんて聞かれた日には、こっちに来るなと追い払ってしまいたい。しかして、悲しいかな。旦那様は奥様から「愛想の振りまき方」をお勉強するよう、宿題を出されたばかり。であれば、上部だけでもお友達を演じて、彼女の好感度を稼ぐのが正しい負債の減らし方というものだろう。

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