表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
653/823

ウレキサイトに浮かぶ赤鷺(16)

「ところで、ラウール君」

「はい、いかがしましたか? アリソン大佐」


 ラウールを不必要に准尉扱いしないアリソンに、少しばかりの安心を覚えつつ。質問にも珍しく丁寧に答えるラウール。アリソンの質問の向きは概ね、屋敷の女主人のディテールについてだったが、それなりに()()()の提供もあったのだろう。イヤに真新しく、派手な色味の絨毯が敷かれた廊下を歩きながら、意外と深い内部事情にも切り込んでくる。


「彼女がロッソローゼの縁者だって事は、例の大佐さんからも一応は証言が取れている。で、君の話からするに……さっきの傀儡師がジャンネ=アントワネット・パドゥールらしいことも、とりあえずは理解した。だが、その彼女がブランローゼと手を組んでいたとなると……」

「えぇ。先程のミニチュアもですが、例の偽大佐さんも、最初はそちら側から紹介があったものと思われます。ただ、話を聞いている限りだと……彼はおそらく、ジャンネ様こそをハニートラップに引っ掛けようとしたのでしょう」


 “かつて私が口説いたことをいつまでも覚えていては……なかなか解放してくれないんだ。まぁ、私の方は本気じゃなかったんだけどね。でも……今となっては、本気にならざるを得なくなった”


 束の間の自由時間の中で、彼は飄々と嘯きながらも苦渋に満ちた顔をしてみせた。嘘も()()()()の結婚詐欺師の言なのだから、それも一種の演技だと一蹴するのも容易いが。こちらも嘘は()()()()の大泥棒には、彼のそれは演技には思えなかったのだ。


(ま、その俺の嘘もキャロルには通用しませんが……)


 そんなこともアリソンに白状しつつ、自分もリードを握られている身だという事にも気づいて、ラウールはこっそりと肩身を竦ませる。それでも、彼女の束縛や拘束であれば大歓迎だと気分を持ち直しては……1人でニヤニヤし始めるのだから、非常に気色が悪い。


「……ラウール君。何がそんなに楽しいのかね……?」

「おっと、失礼。少し、思い出し笑いをしていましてね。それはそうと……彼はジャンネ様のお手元に置かれることになった段で、それまで培ってきた詐欺師としての本領を発揮しようとしたのだと思います。ウレキサイトは非常に脆い宝石です。彼が生き延びるには、自分の存在を誤魔化して()()()()させるしかなかったのでしょう」


 ウレキサイトの石言葉は「真実の判断」。非常に脆く、温水にさえも溶けるような弱々しい核石を抱えて生き永らえるのに、ジョナルは自身の意義さえも屈折させて、誰かを騙すことに全てを傾けたのだ。しかし……。


「俺もコントローラーの詳細な機能は存じませんが。でも、あれがカケラの能力を制御して、ご主人様のオーダーを叶えるものだということくらいは、分かっています。おそらく、彼の能力はジャンネ様には通用しなかったのでしょう。それどころか……」

「逆に能力を利用される事になった……と。資金繰りのために結婚詐欺をさせていたんだな……」

「ですけど、アリソン大佐。そちらに関して、不自然な点に気づきませんか?」

「うむ? 特に思い当たるものはないが。この()()()()()の絨毯を見れば、パドゥールは()()()余力(資金)があることは、一目瞭然。貴族に狙いを定めれば、相当の金額を巻き上げられ……」


 そこまで言いかけて、アリソンも何かに気づいたらしい。ハタと歩みを止めては、ラウールに意味ありげな視線を寄越して見せる。


「……えぇ、そうですよ。ロンバルディアには確かに、貴族は掃いて捨てるほどに大勢いますが……このご時世で懐が豊かな家柄となると、ごく一部の著名な貴族に限られます。しかし、そんな相手に狙いを定めて、詐欺を働いてご覧なさい。……あっという間に、足が付くでしょうね。何せ、ロンバルディア警察は貴族のご要望とあらば、頼まずとも額に汗して働いてくれますから。しかも、彼女達の罪状は詐欺だけではありません。……全面的に禁止されているカケラの取引も含まれていました。であれば、結婚詐欺一辺倒で()()()を期待するのは、リスクが高すぎる」


 最初はラウールも彼女達がロッソローゼの縁者を名乗るのは、赤薔薇の権威や評判を落とすためだと考えていたし、結婚詐欺の成功率を上げるための虚偽なのだろうと考えていた。しかし、先程の来訪者のミニチュアの様子を見て、その限りではないと気づいたのだ。そう。彼女の本当の資金源は……。


「ここから先は憶測でしかありませんが、ジャンネ様はブランローゼと結託するだけでは飽き足らず、()()()()()()()()引き継いでいたのだと思いますよ。そして……こちらが把握している以上に、研究も進んでいるのだと考えた方がいいでしょうね。彼女の持っていたコントローラーは明らかに改良版でした。まぁ、今回の場合……改良番だったおかげで、俺は命拾いをしたのですけど」

「おや、どうしてだい?」

「……理由は()()ですよ。あれだけの来訪者のミニチュアが揃っていたのに、()()()がジャンネ様に狙いを絞ったのは、()()()()()()()()()()性質量が最も多いと判断したからです。……ジェムトフィアの判定は対象の体積に対する、性質量の割合が基準となります。彼女のおもちゃが()()()()()おかげで、拘束銃はそのコントローラー自体を拘束するに至ったのです」


 きっと、あのまま来訪者のミニチュアを4人も相手にしていたら、ラウールはとっくに摘み上げられて、()()()()()へ放り込まれていただろう。そうして、秘密の部屋に続くらしい地下への階段を見つけ出すと……アリソンに意味ありげな視線を送るラウール。その視線を受け取って、アリソンも重々しく頷くが。予想通りであれば、この先には赤鷺さんの被害者だけではなく、駒鶫さんの被害者も揃っているに違いない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ