表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
651/823

ウレキサイトに浮かぶ赤鷺(14)

 お願いしても首を縦に振らないのなら、無理矢理にでも首根っこを掴むまで。交渉決裂の果てに、ジャンネはいとも容易く4人のお人形の首に仕込んでいた薔薇を咲かせては、彼女達に何がなんでもアレキサンドライトを掴み取るよう指示を出す。


「ふふふ……さぁ、さぁ! 流石の怪盗紳士も、4人相手は厳しいのではなくて? いい加減、観念しておしまいなさいな」

「それだけは死んでも御免です。それに……これは()()()()で、非常に厳しい状況だと言わざるを得ませんね」


 4人のミニチュアを相手にしなければならない以前に、彼女のコントローラーの性能に警戒心を募らせるラウール。かつて相手をした正義の傀儡師(自称)は直接その手で薔薇を咲かせていたが、彼女のコントローラーは手を下さずとも遠隔でお人形を変質せしめた。そのことから、おそらく彼女のコントローラーは()()()なのだろうと思われるが……。


(であれば、少々……不味いことになっているようですね。しかし……)


 ここは()()()()を気にするよりも先に、まずは彼女達を止めなければならないが……。

 拘束銃で機能停止した上で核石を砕くのが、来訪者のミニチュア(暴走したカケラ)の正しい()()の仕方なのは分かりきっている。それでも、本当は被害者側であるはずの彼女達を()()()()()のは、流石のラウールも寝覚が悪い。


「……⁉︎」


 しかし、ラウールが珍しい慈悲を傾けながら、彼女達を助けようとしていると言うのに。当のミニチュア達の方は、ラウールが自分達を見捨てたと誤解しては、拳と同時に唸り声を上げる。けれども……彼女達の怒りはどこまでも、逆恨みでしかない。「言う事を聞いてくれなければ、殺される」と言われたところで、その代償に自由を差し出さねばならぬとなれば……それを拒絶するのは、ワガママのうちには入らないだろう。


(流石に4人相手は、なかなかに迫力がありますね。しかも……)


 きっと、月長石(エルマンス)ナンバー54と呼ばれたムーンストーンのカケラと思しき彼女は、性質量もそれなりにあるカケラだったのだろう。4人の中でも一際深く退()()しては、手練のインスペクター相手に的確に拳を叩き込んでくる。


「グッ……!」


 しかも、そのムーンストーンの攻撃を避けたはいいが、別の拳が間髪入れずに飛んでくるものだから、流石の大泥棒も全てを躱し切る事もできない。相当に重たい攻撃を背中から受けて、吹き飛ばされついでに仕方なしに少し離れた場所に着地するが。執拗にラウール目掛けて突進してくる異形達は、美しいだけの宝石人形の儚さは微塵も感じられないものだった。


(……ふむ。クラックも見当たらないとなると……彼女達はただの宝石人形でもなさそうですか?)


 痛みを堪えてゆらりと立ち上がりながら……それぞれの()()()()を慎重に見極めるラウール。一番厄介なのは、ムーンストーンだが。彼女の攻撃に追撃を加えてくるのは、決まってヘリオドールのカケラと思われる緑柱石のコンビだ。そして、奥で3番手を担うのがターコイズのカケラ……と、攻撃を仕掛けてくる順番にはルーチンがあるらしい。


(彼女達は獲物を効率的に狩るために、攻撃傾向をある程度、()()()()()されているのでしょう。だとすると……)


 この絶妙な連携プレーは試行錯誤の末に出来上がったもの、とするのが妥当だろうか。であれば、彼女達がこうなるのは初めてではないという事になるが……そうなると、今度は別の疑問が浮かんでくる。


「今は余計なことを考える余裕はなさそうですね。こうなったら……!」

「いいわよ、お前達! ここでしっかりと、アレキサンドライトを甚振っておしまい! それで……」

「あぁ、それ以上は結構です。どんなに痛めつけられようとも、あなたなんぞの手駒に成り下がる気はありませんよ。それに……あなたには聞き出さなければならない事が、山ほどありますし。そろそろ、()()()にしましょうか。全く……こんな所で、手の内を見せびらかすから、いけないのです」

「えっ……?」


 自分が勝ち取ってきた未来を諦めるわけにはいかないと、頼りになる拘束銃(お馬鹿さん)を取り出しては……最も狙うには無謀でありながら、順当だと思われる相手に、閃光の楔を届けるラウール。そうしてやっぱり()()鹿()()()()()が抜けない拘束銃は、真っ直ぐに自分好みの相手へ鎖を伸ばして、奥に佇む傀儡師こそを締め上げるが……。


「ちょ、ちょっと……! これは……一体……⁉︎」


 激しい電圧と拘束に襲われて、彼女の手に握られていたコントローラーがパキンと軽やかな音を立てて割れる。その瞬間にだらりと脱力すると同時に、か細い唸り声を上げて蹲るミニチュア達。そんな彼女達の様子になるほどと、思う反面……彼女のコントローラーの出どころでは、不味い方向に研究が()()()()()いるのだろうと、渋い気分にさせられてしまう。それでも、ようやく遠くに聞こえてくるキャタピラの轟音に、不本意ながら、安堵の息を吐かずにはいられないラウールだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ