表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
643/823

ウレキサイトに浮かぶ赤鷺(6)

 呼び出されて、仕方なしにロビーへ出てみれば。そこには昼間の反省を生かしたのか、ディープネイビーの軍服姿のジョナルが、ソファにだらりと身を沈めているのが見えてくる。あまりの脱力ぶりに、別人なのかと錯覚したが……ラウールとキャロルの姿を認めた途端にピリッと背筋を正すのだから、ご本人様には間違いないらしい。


「……全く、こんな時間に何のご用ですか? そもそも、よくここが分かりましたね?」

「お嬢さんが持っていたパンフレットが、こちらのホテルのものでしたので。それで……」

「フロントでロッソローゼを()()()、無理を通したのですね」


 まぁ、そんなところです……と、さも情けないと寂しげに笑うジョナルだったが。ラウールの嫌味にも食ってかかってこないのを見るに……彼の()()()()には嘘はなさそうだと、流石のラウールも矛先を収める。キャロルには自分の隣に座るように促しつつ、自身はジョナルの正面に腰を下ろした。


「しかし、よく気付きましたね。キャロルの持っていたパンフレットがこちらの物だって」

「一応、目はいいんですよ、これで。……意図せず、()()()()になってから、色々と苦労はしていますけど。意外と便利な部分もありまして。瞳だけは高性能になったものですから、大抵のものは()()()()()()()、拡大鏡を通したように見えるようになりました」

「だとすると……もしかして、あなたもひょっとすると、ひょっとします?」


 ラウールの言わんとしている事を、ジョナルもしっかりと理解したのだろう。示し合わせたように頷くと同時に、あたりをキョロキョロと見渡しては……ここなら大丈夫かも知れないと、安堵の息を吐く。


「……彼女達の秘密が効かなかった時点で、もしかしたらと思ったのですけど。あなた達も()()()()、で合っていますか?」

「不運な事にね。それにしても……今、彼女達とおっしゃいました? それって、もしかして昼間の……」


 しかし、先程安心した様子を見せたのも束の間。今度は、何かに気づいたらしいジョナルの顔がサッと曇った。そうして、それ以上の話をするのは憚られるとばかりに、キャロルに熱っぽくウィンクして見せると……ジョナルが1枚のメモを差し出してくる。


「さて……と。あまり長居すると、()()()()を心配させてしまう。……秘密のランデヴーを怪しまれないうちに、私は失礼する。ふふ……では、レディ・キャロル。素敵なお答えをお待ちしていますよ」

「はい。こちらは後で、拝見します……」

「それで、結構。……何せ、私のハニー達は揃ってヤキモチ焼きでね。かつて私が口説いたことを、いつまでも覚えていて……なかなか解放してくれないんだ。まぁ、私は本気じゃなかったんだけどね。でも……今となっては、本気にならざるを得なくなった」

「……」


 最後にさも辛そうに意味ありげな言葉を吐きながら、少しばかり白濁した瞳を潤ませるジョナル。その横顔に、彼はまだそこまで()()()()()()()()()存在であるということも、うっすらと見えてくるが。ラウールは彼の瞳にこそ、最大のヒントを見据えては……拡大鏡はきっと素敵な()()()()なのだろうと、尚も嘆息せずにはいられないのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ