ズバッとお仕置き!スペクトロライト(25)
「あぁうぅ〜……退屈だ。つまらないぞ……」
【たまにはシズかなの、ワルくない。ジェームズはサクバン、とってもツカれた。オトナしくしているに 、カギる】
「ブゥゥゥ! ジェームズ、薄情だぞ。ここは一緒に散歩に行こう、って場面なのではないか?」
そんな訳、ないだろうに。ジェームズは裏路地にさえも燦々と降り注ぐ強烈な日差しを見つめながら、丸焼きは御免だと……そっぽを向いて、フテ寝に勤しむ。薄暗い店の中であれば、ひんやりとしていて惰眠を貪るにも最適。年季は入っていても、しっかりと磨かれているフローリングはそれなりに艶もあって、スベスベで涼しいこと、この上ない。しかもさり気なくヘリンボーン柄になっているのには、何かと建築や調度にうるさいジェームズをも唸らせていたりするが……床材はラウールのチョイスではなく、先代の趣味である。
「こんにちは。ラウールさん、います?」
「うむ? お前は確か……あぁ、そうだ。メーワンだったか?」
【キュゥゥン(メーワン、チガう。メーニャンだ)……】
退屈すぎて根っこが生えそうなお留守番に乱入して来たのは、いつぞやのジャーナリスト。誰かさんに似て、興味のない相手の名前は覚え損ねているイノセントに訂正を加えながらも、相も変わらず掴み所がない様子で、ルセデスの方はニコニコしている。
「生憎と、ラウール達は旅行に出かけているぞ?」
「旅行ですか?」
「うむ。こんなにも可憐で可愛い養女を置いて、新婚旅行とやらに行っているのだ。……お陰で、私はとっても退屈だぞ」
「そうだったのですか。だったら、日を改めた方がいいでしょうかね?」
「メーワンはラウールに用事でもあったのか? 良ければ用件くらいは、私が聞いてやってもいいぞ?」
だから、メーニャンです……と、苦笑いしながらルセデスが応じるところによると。彼はこんな暑い中、わざわざやって来ては、注文していた結婚指輪を引き取りに来たのだそうだ。そうして、ついでに何かの招待状を差し出してはラウールに渡して欲しいと頼んでくるが……。
「ガーデンパーティの招待状……って、あぁ。そういう事か。結婚式、するんだな? ふ〜ん……予定は10月? ……随分、先みたいだが?」
「えぇ、まぁ。それなりに準備が必要ですから。しかし、新婚旅行かぁ。いいなぁ……。ラウールさん達はどこに行かれたんですか?」
「ヒースフォートという所らしいぞ。料理は不味いが、立派な城があるらしい」
あまりに明け透けなイノセントの解説に、これまた苦笑いしながらも……王道の旅行先になるほどと唸るルセデス。あのラウールでさえも絡め取るのだから、「乙女の憧れ、ヒースフォート城」の謳い文句は伊達ではないと、嬉しそうに流れに乗るかと呟く。
「……って、ジェームズ。どうした?」
【ワンッ! キャフフッ(ケッコンユビワ、このキンコのナカ)】
「……そう言えば、そんな事も言っていたかもな。しかし……渡しても、いいんだろうか?」
【ファフッ、ファフフッ(タブン、ダイジョウブ)】
連絡はしてあるので、留守中にルセデスが来るかも……と、言われていたとイノセントも思い出し。ジェームズに示された金庫の鍵を開け、厳重に保管されていたジュエリートレイごとカウンター上に置いてみせる。そうしてお披露目された商品には、ご丁寧にリングピローとリングケースもしっかりとセットにされており、きっと丸ごと渡せという意味なのだろうとイノセントも理解するが。しかし、妙に配慮が行き届いた様子に……おそらく、これを用意したのはラウールではなく、キャロルだろうとその場を見守るジェームズは勘繰っていた。
「メーワンが注文していたのは、これで間違いないか?」
「もぅ……僕の名前を覚えてくれるつもり、ないんですね? まぁ、いいか。えぇ、えぇ。そうです。この2色使いのリングこそ、間違いなく僕が注文していたものです。それにしても……ちょっぴり奮発した甲斐がありましたね。色味もいいですし、デザインもさり気なく凝ってます。やっぱり、ラウールさんにお願いしてよかったなぁ」
「……あれで、ラウールもセンスだけはいいからな。普段から、変な所は凝ってる」
「あはは、そうなんですね。ふふ……それはそうと、イノセントさんは昨日のニュース、知ってます?」
「昨日のニュース……あぁ、もちろん知っているぞ! デビルハンター・セイントハール大活躍の事だろう⁉︎」
【……(ナンだか、イヤなカンじがするが……)】
確かに「ハール君」の活躍は新聞の一面でも大きく取り上げられていたし、受像機でも朝から憶測も含んだ情報が垂れ流されている。しかし、「セイントハール」と報道していたものは、ただの1つもなかったかと思う。そんなイノセントの軽はずみに、意図しない情報漏洩を懸念しては……話せない状況も相まって、ハラハラと気を揉むジェームズ。
大体、こんな暑い日の昼間にわざわざ結婚指輪……しかも、実際の出番は2ヶ月も先らしい……を取りに来る時点で、他の狙いがあると考えた方が自然だ。だとすると……。
「それでな! 私もそこで……」
「ただいま戻りました。あぁ、暑い暑い……って、あら? 珍しい。お客様ですの?」
「えっ?」
「おぉ、帰ったかサナ! 今な、こっちのメーワンに注文品を引き渡していたところなのだ!」
【キュゥン(グッドタイミング、サナ)】
そちら絡みの情報収集にやって来ていたであろうルセデスに、イノセントが余計なお喋りをしてしまいそうになったところで、丁度よくサナが帰ってくる。彼女は彼女でそちら絡みの報告に出かけていたのだが、少なくともイノセント程に軽率でもなければ、お調子者でもない。……部外者の前では話すことができないジェームズとしては、その時のサナこそがスーパースターにしか思えなかった。




