ズバッとお仕置き!スペクトロライト(19)
急いでローサン街へ舞い戻ってみても、バロウなきベスに住人達も旨みを感じないのだろう。それどころか、何とか修理できないかと考えていた望みの一手も、無慈悲にもぎ取られた後らしく……ベスの目の前には目ぼしい部品を剥ぎ取られて、鉄屑の塊に成り果てたバロウの愛車が虚しく転がっていた。
「ハハ……そう、よね。所詮……」
Money gone, believers gone……金の切れ目が縁の切れ目。この街では、旨味を失ったスーパースターを崇める程までの熱狂的なファンは出現し得ない。しかも、バロウとベスはどこまでも余所者……更に、幸運をもたらす青い鳥ではなく、招かれざる黒い鳥になりつつあるらしい。チラホラと警察官が彷徨き始めているのを見るに、ローサンの住人にとっても今のベスは迷惑を運ぶ厄介者でしかなかった。
(どうしよう……どうすればいいの?)
バロウを助けようにも、ここで足踏みしていたら自分も捕まってしまう可能性が高い。そうして、打開策を見つけなければと目立たない裏路地に逃げ込んでは、とりあえずの足を探す。すると……。
(あれは使えそうかしら。あぁ、そうよ。今は迷っている場合じゃないわ。とにかく……)
ベスが見つけたのはちっぽけな幸運ではあったが、必要な要件を全て満たす素敵な不運だった。
きっと、見張り以外のメンバーは捜査(という名のユスリ)に出払っているのだろう。見張りの貧乏くじを引いた若い警察官が、ブツクサとボヤきながら蒸気自動車に凭れて安タバコを蒸している。善良な市民であれば、このあまりに気怠い職務態度には「税金泥棒」と罵ってやりたくなるかも知れないが。その時のベスにしてみれば、彼の怠惰こそが何よりも好都合である。
「お兄さん、ちょっと良いかしら?」
「あ? なんだ? 引っ掛けか? だったら……」
「ふふ……私、そんなに安い女に見える? 悪いんだけど、用があるのはお兄さんじゃないの。そっちのお・く・る・ま……の方よ」
「はっ? ……って、お前! も、もしかしてッ⁉︎」
ようやく気づいたの、お馬鹿さん。
カチャリと手元に残っていた拳銃で、ベスがおでこにホットなサービスをしてやれば。プルプルと震えるついでに、折角のおタバコの灰も根こそぎ落とし始める若者警察官。おぉ、おぉ。これが大陸最大を誇る大国の守り手の姿だと思うと、嘆かわしい限り。頼まれもしないのに、あっという間に恐怖で爪先から頭の天辺までを染め上げて……最後は「ママ」と哀れに呟く坊やは、堪らず失禁しては、ドサリと失神までして見せる。
……ロンバルディアは、本気で警察官の教育そのものを考え直した方がいい。
「……大人になっても、オムツが必要だなんてね。全く、そんなショボい得物で私を引っ掛けようだなんて、100年早いわよ」
呆気なく陥落したベイビーちゃんを見下して。ややお下品なことを言いつつも、ごめん遊ばせと思い出したように上品さを取り繕いながら……ベスは譲ってもらった蒸気自動車のボイラーを蒸す。その従順かつスマートな稼働加減は、流石は天下のロンバルディア警察の持ち回り品と言ったところなのだが……強情でシリーなのは、ただただ持ち主ばかりかな。こうなっては、高級品も宝の持ち腐れ。この調子では、押しも押されぬ大スターの逮捕は夢のまた夢だろう。




