ズバッとお仕置き!スペクトロライト(15)
あげる、あげる……力をあげるわ。望むものは、全部……何もかも。
右胸で疼く少女の声に意識を委ねて……バロウは諦めと同時に、ドス黒く渦巻く欲望を取り戻す。そうだ……自分は奪われる側じゃなくて、奪う側になったのだ。馬鹿にされる側じゃなくて、馬鹿にする側に上り詰めたんだ。だったら、相応しい力を得るのは、当然というものじゃないか。
クスクスと自身の中から響く声が確かに、神経に繋がるのを感じる。身体中の全てに彼女の鼓動が重なるのを、確かに感じる。そうして、気づいた時には……バロウは失った右腕さえも黒々とした翼に挿げ替えて、巨大な鳥の化け物に姿を変じていた。
【これが、アタラしい、チカラ……あぁッ⁉︎ ウグッ……⁉︎】
(そうよ、私のかわいい小鳥ちゃん。一旦はその翼で、私のところに帰っていらっしゃい。……今のままじゃ、あいつには勝てないわ)
【か、カエる……? イッタイ、どこに?】
頭が痛い。割れるように、痛い。響く甲高い声が、余計にバロウの神経を疼かせるのだから、イライラするではないか。とにかく今は面倒なことを何もかも投げ出して、一刻も早く逃げてしまいたい。
しかし、一方で……突如として豹変した銀行強盗の様子に、心当たりがあるのだろう。セイントハールがさも仕方ないと首を振りながら、さっきは諦めさせられたマジックショーの続きを強行すると同時に、1つの提案をルナールに投げかける。
【ハール……まさか、こいつをヤきツくすつもりか?】
「いいや? 人は傷つけぬが、大泥棒の信条なのだろう? であれば……私もこいつがまだ人でいられるのであれば、助けることを考えねばならん」
「そう、だよね。ハールちゃん……って、どうしたの?」
「……ただし、この姿のままではあやつを助けてやることはできぬ。あれの変身を促した大元を抉り出すには、こっちの姿の方がいいだろう。という事で、ルナール。私という聖剣を存分に振るうのだ〜!」
「えっ?」
一方的に嘯いたかと思えば、ルナールの手を取るセイントハール。そうしてダモクレアへと変貌を遂げると、さも当然とばかりに彼の手中に収まる。
「え……えぇぇぇッ⁉︎ こっ、これ……どういう事⁉︎」
(私はグリードの能力によって、自身の身を武器に変化させる事ができるようになっていてな。だけど……)
「あぁ……そう、だよね。……この状態じゃ、自分で動けないもんね。だとすると……」
(そういうことだ、ルナール。クフフフフ……このセイントハールを振るえるなんて、光栄に思うがいい)
「う、うん(ここはそういう事にしておこうかな)……」
しかしながら、ルナールに剣の心得は一切ない。普段扱う刃物と言えば、下拵えのお手伝いで握る包丁くらいである。しかし、今はそんな事を言っている場合ではないと、直感的に白銀を構えれば。ダモクレア自身の気分も最高潮とばかりに、剣身に青い炎を纏って見せる。
「い、行くよっ! ハールちゃん!」
(臨むところだ、ルナール! ……見たところ、あいつの変化は右胸から起こっていた。だから……)
「……分かった。右の胸を狙えばいいんだね」
【とはイえ……あのジョウタイはちょっと、まずいんじゃないか? ……あいつ、まだこっちがミえていないようだが……】
「えっ……? え、えぇぇぇッ! そっちはダメ! ダメだよ、おじさん! だって……!」
その先は、大通りに繋がっているのだから。彼が飛び出したら街中がパニックになる以前に、住人を巻き込むかもしれない。しかし、一方の怪物の耳にはルナールの忠告は届かぬ様子。少しばかり馴染んで動かせるようになった翼を無我夢中で羽ばたかせては、非常に宜しくない方向へ走り出す。
「と、とにかく……」
【オうしかないな。イくぞ!】
(クフフフ……化け物め。私の神々しさにいよいよ、怖気付いたか?)
「そう……かもね(それは多分、違うと思うよ。ハールちゃん)……」
やっぱり、前途多難かも。自身に剣の心得もなければ、頼みの武器は妙に世間様と感覚がズレている。そうして、ルナールはルナールで……不安しかない、とっても素敵な怪物退治へ走り出すのだった。




