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ズバッとお仕置き!スペクトロライト(12)

 雑多な面倒事や事件からは縁遠いはずの、灰色で草臥れた街・ローサン。その街中で、突如として静寂を切り裂く銃声が木霊する。銃声一発、耳を擘くような破裂音が響けば。いくら怠惰な街と言えど、飛び起きずにはいられないらしい。何だ何だと、街中が息を吹き返すようにざわめき始める。


「くそっ……! どこのどいつだ、俺様の愛車に傷をつけた奴は⁉︎」


 夜逃げは泥棒の様式美。その例に漏れず、真夜中に出ていこうと愛車を走らせていた強盗2人組だが……狩人達は初手に彼らの逃げ足を封じることにしたらしい。たった一発で、ものの見事に堅牢な鋼鉄の前輪がひしゃげていた。車輪が歪んでいては、いくら最新鋭のスペクトル鉱自動車とは言え……このまま走らせるのは、無謀だろう。


「……ベスにバロウ、ですわね? 夜分遅くに申し訳ございませんが……」

「とある方からご依頼いただき、その御身を預かりに参りましたわ」

「大人しく、降参なさいな。……私達から逃げようなんて、思わないことね」


 頼りになる愛車(盗品)を仕留められて、焦っているベスとバロウの前に立ちはだかるは……黒いマスクに黒尽くめのライダースーツを纏った、3人の怪しげな女達。それぞれの手に銃火器を持ち寄っている時点で、彼女達もそれなりに荒事に慣れているのは、推して知るべきことだろう。しかし……。


「はぁ? 何を寝ぼけたこと、言ってんだ? 俺を止められる奴なんて、そうそう、いないさ。そこを退け、アバズレどもがッ!」

「あら。随分な自信ですわね。所詮は負け犬が、威勢だけは宜しいこと」

「そうですわ。強盗殺人犯如きにアバズレだなんて、言われる筋合いはなくてよ?」

「……ふふ。その品のなさも、なかなかに滑稽ですわね?」

「黙って聞いてりゃ……何なんだ、てめーらは、よぅ! ここでまとめて殺されたいのか、あぁ⁉︎」


 3人に寄ってたかって馬鹿にされて、バロウがますます声を荒げては。自慢の右腕を振りかざすと見せかけて……拳を前に突き出す。カチャリと外れた手首から現れたのは、見えるだけでも7つほど並んだ銃口の黒い輝きだった。


「あらあら……まぁ、なんて珍しいことでしょうね。仕込み銃アリの義手、ですか? この様子だと、少しは退屈しないで済みそうかしら?」

「ですけど……やっぱり、素人さんは滑稽ですわね。ちっぽけなおもちゃ程度で、私達を降せると思わないことね」

「ドウドウ……2人とも、今回の目標は対象の確保です。木っ端微塵にするのは、あの腕だけでお願いしますわ」

「……お前達、本当に何なんだよ……? そこまで言うのなら、やってやろうじゃねーか‼︎」

「バ、バロウ……もう、これ以上はやめた方が……」

「ウルセェ!」


 バロウを諌めようとしたベスを荒々しく小突くついでに、激昂したバロウの右腕からお行儀の悪い銃弾が待ちきれないとばかりに、発砲される。彼の腕に仕込まれていたのは、ちょっとしたマシンガンの類らしい。たった1人だと言うのに、今度は激しい銃撃戦と錯覚するような破裂音を街中に響かせるが……。


「援護をお願いしますわ、2人とも!」

「勿論ですわ!」

「この程度の銃撃くらい……全て、撃ち落として差し上げましてよ!」


 中央に立っていた女が少しばかり後ろに飛び退いたのを合図に、左右の2人が両手の拳銃をここぞとばかりに唸らせれば。あれよあれよと言う間に、冗談抜きで全ての銃弾を寸分違わず弾き落として見せる。その所業はまさに、神業。ターゲットを傷つけることなく、自身も傷を負うことなく。完璧かつどこまでも優雅な所作で、玄人の意地を見せつけて。いよいよトドメを与え(分からせてあげ)ましょうと、中央の女がショットガンを最後に撃ち込めば。次の瞬間に、悲痛な黒鉄の破滅音がバロウの耳元から脳天まで突き抜ける。


「ギャっ……! お、俺の……腕がぁ⁉︎ う、腕……!」

「バ、バロウ、大丈夫⁉︎」

「大丈夫な訳、ねぇだろ! ち、ちくしょう……!」

「……観念なさいな。大丈夫ですわ。決して悪いようには致しませんから」

「そちらの治療も含めて……」


 勝ち誇った様子で、女達が口々に投降せよとベスとバロウに勧めては、尚も銃口を2人に向ける。そうされて、流石の強盗殺人犯も逃げ切るのを諦めようとしていたが……。


「……⁉︎」

「な、何ですの⁉︎」

「俺達のベス様とバロウ様に何をするんだ!」

「そうだ、そうだ! ここから出ていけ、悪魔ども!」

「あ、悪魔……?」

「私達が……?」


 例え、その場凌ぎであろうとも。この街の住人にしてみれば、黄金色の恵雨の有り難みは非常に大きい。自分達のスーパースター(救いの神)の窮地と知れるや否や、3人の異端者達に浴びせられるのは、心ない罵声と石礫の雨。きっと、彼女達の言葉遣いや、振る舞いが必要以上にお上品だったのも良くなかったのだろう。まるで親の仇、庶民の敵とでも言うかのように……ローサン街の住人達が3人の狩人を駆逐せんと、総攻撃を仕掛けてくる。


「キャァ⁉︎」

「ちょ、ちょっと……大丈夫ですの⁉︎」

「……人に煉瓦を投げるバカもいるのですね。ここには……」


 冗談抜きで、殺す気か。これだから、騙されやすい狂信者の群れは非常によろしくない。そうして、突如発生した()()()()にこれ幸いと、喧騒に乗じてベスとバロウが逃げていくが……流石の狩人達も、滝のように降り注ぐ灰色の雨を掻い潜る事も叶わず。仕方なしに、撤退を余儀なくされるのだった。

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