ズバッとお仕置き!スペクトロライト(11)
サムの話から、彼らの潜伏先はローサン街である可能性が非常に高いと踏んでは……サナはソーニャとヒトハと合流し、ローサン街の寂れた街を屋根の上から見下ろしていた。
ターゲットがこんな場所で金貨を降らせていたのは、優越感に浸ること以上に……自分たちを匿い、庇ってくれるシンパを集めるためだろう。困ったことに、ここロンバルディアでは貴族や警察の手を煩わせるダークヒーローは、悪行加減も度外視で庶民にすんなりと迎合されてしまうフシがある。流石に、市街地の善良な一般市民には彼らを匿うような狂信者はいないものの。既に失うものさえ持たない貧民街の住人にとっては、一時的であろうとも、恵みの雨を降らせたスーパースターは神にも等しい。
「……しかし、意外と広いのですね、ローサン街も。この街からターゲットを探すのは、なかなかに骨が折れますわよ?」
「えぇ……そうね、ヒトハ。ですが、サム君の話ですと、彼らが金貨を撒いていたのは中央通りなのだそうですわ。そして、その並びにとりあえずはマトモな宿があるのだとか」
「そうでしたの。あの後の目撃情報がない以上、この街に潜伏しているのも間違いないでしょうし……。であれば、そちらにいる可能性が高そうね?」
「そういうことですわ。ところで、ソーニャ」
「何かしら、サナ」
「……モーリス様には、何と?」
「ウフッ。お仕事に行ってくるから、いい子で待っていてとお願いしました。ダーリンの代わりに不届き者を懲らしめてくると、言ったら……涙目で感動してくれましたわ」
多分、それは感動の涙ではないと思う。
おそらく、モーリスは起こりうる騒動を予測しては、前倒しの恐怖に慄いていたに違いない。だとすれば、当然……。
「……モーリス様に止められませんでしたの? 私とサナだけでも、大丈夫だと思いますが……」
「まぁ、ヒトハったら、薄情ですのね? もちろん、止められましたわ。危ない目に遭うのが心配だって……もぅ。健気にそんなことを言われたら、そりゃ、ちょっとは考え直したくもなりますけど……」
「けど?」
「今、ど〜〜〜〜しても欲しい香水があるんですの。だから、お給金を是非に頂きませんと!」
「そ、そう……だったのです、か……」
この場合、心配されていたのは、銀行強盗の方だろう。しかし、結婚してからも恋する乙女で突っ走るソーニャには、モーリスの忠告も都合がよろしい方角のロマンスに誤変換されてしまう。まずまず、彼女の物欲に油を注ぐのだから、よろしくない。彼女の欲張り加減は、どこかの大泥棒さんも真っ青である。
***
「クフフ……やっぱり、夜のお出かけはワクワクするな」
【……タノむから、オトナしくしておいてくれよ、イノセント】
「そうだよ。僕達は見学なんだから。お仕事の邪魔しちゃ、ダメだからね!」
「うぐ……ボンドもルナールも連れない事を言う……。べ、別に、この怪傑・セイントハールとて……邪魔する気は……」
衣装のなじみ加減も最高と、ちゃっかりとトーキーアニメの登場人物になり切って。イノセントが同じく変装済みな怪しい仲間達のノリの悪さをグズグズと詰る。尚……サムに配役されたルナールとは、ハール君のサポートをしている元悪魔の相棒である。子狐・ボンドの親玉にあたる存在で、黒い狐の面がトレードマークのナイスガイという設定なのだとか。きっと……ラウールがいたらば、母親もファン層に取り込む気満々のディテールに、眉を顰めている事だろう。
「サナ達は……あぁ、いたいた。しかし、あぁも堂々と立っていられると、とっても悔しいぞ……!」
「す、凄いね、何だか。3人とも、スラっとしていて格好いいや!」
【サナタチは、カリュウドとしても、イチリュウのスゴウデだ。まずまず、シッパイはないだろう】
少し離れた屋根に佇む3つのシルエットはお揃いのライダースーツを着込んで、凛とした気高さを余す事なく振りまいている。しかし、彼女達の姿を手放しでサムが「格好いい」と褒めれば、ますますイノセントとしては面白くない。そうして、「ズバッとお仕置き」な活躍の舞台を思い描いては。興奮冷めやらぬと、狩人達の黒い背中に憧れと嫉妬の熱視線を送り続けていた。




