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ズバッとお仕置き!スペクトロライト(10)

 大丈夫なはず。きっと、大丈夫。そう自分に言い聞かせつつ、ラウールは嫌な予感で張り裂けそうな()()を抱えては、部屋の中央でウロウロしていた。

 彼の頭をガンガンと悩ませているのは、他でもない。事あるごとに発動される、娘もどき(イノセント)のワガママ無双についてである。それでなくても、イノセントは自分の望み通りにならないと、力尽くで無理を通す傾向がある。ジェームズのいう事を聞いてくれていれば、まずまず問題はないのだが……そのジェームズにも、彼女の暴走を()()()沈静化させる術はない。

 それでも……ハタとこんな事で悩んでいる場合ではないと、ちょっとした希望を見つけては、今日こそは()()してもいいだろうかと、水音滴る目的地(バスルーム)を見据えるラウール。だって、今は()()()新婚旅行の真っ只中。ここ最近は2人きりの時間を理不尽にガリガリと削られてきた彼にとって、最愛の奥様にベッタリと甘えられる機会を逃す手はない。


「キャロル? えぇと……」

「あら? 長湯し過ぎてしまいましたか? す、すみません……ラウールさんもお風呂、入りたいですよね。もう少ししたら、上がります……」

「いや、そうじゃなくて……」

「……?」


 一緒に入ってもいいでしょうか?

 バスタブで泡に包まれている奥様の顔色を窺いつつ、旦那様が遠慮がちに呟けば。その意図を察知すると同時に、キャロルも少しばかり赤くなりながらも、コクコクと頷いて見せる。そうして……作戦を成功させてみたものの。実際に実行する段になると、恥ずかしいというか、何というか。初めてのシチューションなものだから、新鮮さ以上に、互いに妙なぎこちない気分も拭えない。


「……」

「……」


 1つ屋根の下ならぬ、1つバスタブの中。変に驚かせまいと……まずは、彼女の後ろ側に潜入もしてみたが。その次はどうすればいいのかさえ分からずに、キャロルの背中を見つめるばかりで、ラウールはその肌に触れる勇気さえ持てなかったりする。仕方なしに、モコモコと泡を無意味にかき回していても……ただただ、つまらない。


「あの……キャロル。その……」

「は、はい……」

「えぇと……こっちに向いてくれませんか……?」


 触れる前に、まずはお声がけから。ちょっぴり勇気を出したのが功を奏したのか、意外と素直にクルリと回転しては、ようやく奥様がお顔を見せてくれるが……。


(ゔっ……そんなに不安そうにしなくても、いいのでは……?)


 穏やかなヘーゼル色の瞳を潤ませながら、今にも泣きそうな顔をされたなら。旦那様としては心外である以上に、とにかく寂しい。


「……ラウールさん」

「は、はい……」

「ラウールさんの核石……少し、大きくなりましたか?」

「えっ? 俺の……核石が大きくなった……?」


 しかし……彼女の不安そうな顔は「襲われる」ことに対する恐怖ではなく、ラウールの変調を気遣ってのものらしい。そっと手のひらを彼の左胸に充てては、やっぱり大きくなっている気がすると、悲しそうにため息を吐く。


「……やっぱり、()()()()()()を優先するべきだったのですね……。ラウールさん、キャンプの時に何か不安な事を見つけたのではないですか? 今まで気づいてあげられなくて、ごめんなさい……」

「い、いや……それは別にキャロルが謝ることでもない気がするけど……。それにしても、俺の核石、大きくなっています? 俺自身はあまり気にしていない……あぁ。でも、そうか。そう、ですね。言われなければ気づけない程に、些細なことでしたけど。確かに……少しだけ、ショックなことがあったかもしれない」


 ラウールにとって、ショックだったこと。それは、例の来訪者のイミテーション……ライヤ達が生み出された経緯の中に、自分のルーツに近しい()()()()が混ざっていたことにある。

 研究者達は来訪者そのものを作ろうとしていたが、そのために採用された手法はあまりに残虐で、あまりに無謀で……ラウールには、あまりに()()()()()ものだった。

 母体に他の命を埋め込んで、都合のいい存在を産み落とさせる。命の在り方さえもデザインして、研究者達が成そうとしていたのは……自分達のより良い未来と永遠。研究過程で生み出された命に対して、責任を取ることも、正当に扱うことも決してしようとはしない。産み落とされた側の感情や苦痛が考慮されることも、絶対になかった。


「俺は母さんが()()()()産み落とした、作られた化け物でしかありません。……それだけは、どう足掻いても覆らない現実なのも……既に、分かりきっているつもりでした。それでも、こうして誰かと一緒に暮らして、誰かと一緒に家族になって……少しだけ、忘れていられたのですけど。だけど……ライヤさん達の姿に、その現実を痛感したのです。俺も、結局は彼と同じ種類の化け物なのだ、と。やっぱり、その事実を捨て去ることはできっこないのだと……思い知ったのです」

「そう、だったのですね。……ラウールさん」

「……はい」

「私にできることは少ないと思いますけど、一緒にいることだけはできますよ? きっと、本当の意味であなたを苦悩から解放してあげることはできないのでしょうけど……ちょっぴり、お手伝いはできると思うのです。ふふ。だから、こういう時くらいは甘えてくれて構いませんよ?」

「……そう、だね。うん。でしたら、お言葉に甘えて……」


 今夜は抱きしめてくれますか?

 どちらともなく、互いにそんな事を言い合えば。ちょっぴり重たかった心が軽くなるのは……単純すぎやしないかと、ラウールは皮肉混じりで思ってしまうものの。それでも。こういう時くらい、愚直になるのも悪くない。

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